第150話 靴と飴 ②

 宿場の中は、旅人や商人達がゆっくりとくつろいでいた。

 酒を飲み、歌を歌い、料理を催促している。

 夕焼けに浮かぶ黒い塀の上には、兵士もおり治安も中々良いようだ。

 犬も数頭、巡回の兵に同道している。

 この辺りでは、唯一人が集まる場所だからか。

 私とエリは、ゆっくりと歩き店を覗いた。

 柄が悪い者もそれほどいないようで、女子供の客も出歩いている。

 その流れに混じりながら、雑貨を取り扱う店へと入った。

 色々な品物が、細々と並んでいる。

 私達は物珍しさもあり、端からじっくりと眺めた。

 暇そうに煙草をふかしている店の主人は、そんな冷やかしを咎める事無く、それは何処の品だとか、いちいち私達に説明してくれた。

 そして、じっくりと選んでくれてもいいが店は真夜中までだ。それまでに何を買うか決めてくれ。と、笑った。

 主によれば、酒場も遊興の施設も全て真夜中で閉めるそうだ。

 他の宿場が不夜城なのに対し、ここは一旦閉めて朝早くに営業する。

 ここが西や東への分岐点にあたり、早朝出立連泊無しの客が多い為、なんだそうだ。

 それでもこの宿場が繁盛しているのは、北領近辺の街道にある宿場の中で、ここが一番安全に休める。休めるだけの領主兵がいる宿場である事。

 水と食料の補給をするには、どの道筋を通るとしても間があく為に、ここで必ず補給が必要になる事。

 等と、この宿場の差配の良さと立地によって繁盛しているらしい。

 野宿よりも安全で水の補給ができるのだ、飯の不味さは見逃されるというものだ。

 そして食い物は不味くとも、旅をする者にとって必要な品は揃っている。

 私はさっさと消耗品とカーンに頼まれた品を買い込むと、楽しそうに眺めるエリの持ち物を増やすことにした。

 冬物の服に下着、洗面用具、身の回りの小物。

 可愛らしい刺繍入りの肩掛け鞄を買うと、そこに次々と購入した物を入れていく。

 金額を気にせずに買い物をするのは、気分が良いものだ。

 三組の服、下着、防寒具。

 重い荷物になっては駄目だ。

 最低限、着回せるように選ぶ。

 どれもエリに、好き嫌いの確認をした。

 ただ、品揃えが良いといっても、子供の服が少ないので選択肢もあまり無い。

 そして並ぶ靴に良いものがなかった。

 大きさをあわせると可愛くない。

 成長期だろうし調整できる靴を探すが、可愛らしい靴を探すと役に立たない。

 冬でなければ、可愛らしい靴を選ぶのだが。

 この後、馬に揺られて寒気の中を移動する。

 北領を抜けたとはいえ、冬だ。

 私が悩んでいると、店主が上客には特別だ。と、店の奥から箱を持ち出してきた。

 煤けた紙の箱を開ける。

 革と毛皮の靴が入っていた。

 それも柔らかな革の長靴で、膝下の部分に素晴らしい刺繍が施されていた。


「この刺繍は?」

「この辺りの神様の模様だよ」


 鳥のようなモノが描かれている。

 羽を広げた奇妙な生き物だ。

 だが、どこか素朴で優しげでもある。

 エリに見せると、感心したように刺繍を撫でた。

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