第149話 靴と飴
カーンの部屋を尋ねる。
出かける前に声をかけるためだ。
中には、カーンとサーレルがいた。
荷物を広げて何かをしている。
私達が出かけるというと、ついでにあれこれ買い物を頼まれた。
「他の方も何か頼まれる事はありますか?」
「馬鹿二人は出かけたか?」
「先程、なにやら宿屋の主人に聞いていましたから、悪所に走っていったんじゃないですかね。」
カーンに聞かれてサーレルが答えた。
それまで広げていた
「他は酒飲みだ。気にしなくていい」
「私は風呂でゆっくりとしますよ」
「旦那は出かけないんですか?」
「俺は留守番だ。なにしろこいつが寂しがるからな」
そういうと酒盃を片手に首級の袋を指さした。
自分が休むより、部下の鬱憤を先に減らしたいのだろう。
「ほれ、菓子代だ。買い物に行ってきな」
エリにも服を買うようにと、過分に金を持たされる。
私は首の袋と男を見てから、静かに扉を閉めた。
私とカーンでは、見えている世界が、まったく違うのだろうな。
***
既に宿場の門は閉じられている。
空は茜がさし、暗い雲が流れている。
未だ北領の際である。
寒気が吹き付ければ、外で夜を明かすのは辛いだろう。
村は今頃、吹雪に見舞われているだろうか。
人の行き来も閉ざされて、私の家も雪に潰されてしまうだろう。
もう、帰れないし会えない。
そう思うと、不意に心の支えが外されて、心細くなった。
そんな虚ろを感じたのか、握ったエリの手に力が入る。
気を取り直し、顔をあげた。
人生を前に進ませるのは、自分の意思だ。
子供を不安にさせてはならない。
「さて、旦那からいただいた軍資金で、エリに何を買おうかな?」
微笑みを浮かべてエリを見る。
すると、へにょっとエリの眉が下がった。
いいのかなぁ?って感じだろうか。
「旦那方は金持ちだ。あの飴を半分こした、一番怖そうなお人なんて貴族様だ。存分に与えられた物は使わねば失礼なんだよ」
カーンから与えられた金は、北領の一般的な硬貨である。
地方貨と呼ばれる、中央基準貨幣を地方ごとに両替した物である。
貴族を除く、民草が使用する貨幣と考えればよい。
これも東西南の領主貴族間で調整された物で、この両替手数料も税収の一つとなっている。
この貨幣からもわかるように、東西南はそれぞれ貴族連合という集団でまとまり中央との政治的折衝をする。
そして北はそれからも外れ、一応西の辺境伯一派と統合されている。
なので今、手にしている貨幣は、西でも流通している地方貨である。
まぁ使う方には、どれくらい価値があるかが重要なだけだ。
宿場の露天が売る食べ物を見るに、与えられた金は、エリの荷物を揃えても余るだろう。
本当に、大金だった。
考えてみれば、最初から彼らは気前が良かった。
自分で言っておいて何だが、彼らは貴族で本当に金持ちなのだ。
山賊や傭兵集団みたいなのに。
人は見かけによらないものだと失礼な事を思った。
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