第564話 陽が暮れる前に
門扉の彫像は、飛び立とうとする鳥の姿だ。
優美な尾羽根、燃え立つ姿。
鷲のように見えるが、これが不死鳥なのだろう。
兵士二人が訪うと、壁の出窓が開いた。
暗い穴蔵だけが見える。
要件を告げると、小さな窓がピシャリと閉じた。
待つ間、本来ならば敵意を見せぬようにするものだが、兵士達は墓守と馬を前に押し出した。
そして攻撃されても動けるようにと、お互いに距離をとる。
それに合わせて、私とカーンはザムと位置を変えて下がった。
暫くすると、滑車の回転する音とともに、橋が降り門扉の柵が引き上げられる。
門の閂が引き抜かれ、扉がゆっくりと開かれた。
すると開かれた隙間から、槍の穂先が突き出される。
揺れる穂先は、なんとも情けないもので、そこから腰の引けた様子の男達が現れた。
無言で睨みあう。
馬が不機嫌に鼻を鳴らすと、男達はやっと外へと出できた。
コルテスの私兵という風情ではない。
かと言って遊興にふける貴族といった具合でもない。
傭兵のような荒事の匂いもなく、いいところただの
人族の若い男達。
コルテス人かどうかはわからない。
身なりは乱れ目は血走り体は小さく震えている。
薄汚れているのもあるが、病かと疑う程に落ち着きのない姿からは人種の推測が難しかった。
槍をこちらに向けているが、我々に対して怯えている様子ではない。
そう怯えていた。
怯えて落ち着き無く視線を動かしながら、馬に近づくのがやっとの様子だ。
「我々は中央軍南領第八師団の者である。
オンタリオにて、この者達を今朝方発見した。
コルテス家の者と推測し、お引取り願おうと参った。
又、彼らの状態について、我々は一切関わり無い事を、ここに明言する。
故に、主筋に話を通したい。
誰ぞ、話のできる者はいようか?」
対するミアの立ち姿は、堂々としており武人らしい風情だ。
「返答は如何に?」
口上をのべると、男達を睨みすえる。
ギロリと見下されて、男達の一人が穂先を下げて答えた。
「雇い主は、留守だ」
「何時戻る?」
「俺たちも知らん」
「我々を馬鹿にしているのか?」
「違う!俺たちだって知りてぇんだっ」
口泡を飛ばしての返答に、ミアが振り返った。
それにカーンは、軽く指を振り館を指さした。
「では、彼らを置いていく。
後は貴様らの勝手だ。」
馬を押し出して兵士達は下がった。
「待ってくれ、置いて行かれても困る!」
「我らは困らん。
問い合わせは城塞に寄越せ。
さて、皆、戻るぞ」
「まっまってくれ、こんな生きてんだか死んでんだか、わからねぇ代物を残して行かないでくれ」
「こちらは人助けと思い運んだだけだ。
善意にて、主筋に話を通してやろうとな。
貴様らの都合など知らん。
こちらには一切の関わりがないからな、よく覚えておけ」
それに槍の穂先が乱れ、男達がざわつく。
「頼む、このまま置いていかれても、本当に困るんだよ。
俺達も雇われたばかりなんだ。
何も決められねぇんだよ」
ミアが左手を上げた。
前を向いたまま後退していた隊列が止まる。
「家令ぐらいはいるだろう」
「多分、その馬の上にいる奴だ」
墓守達を穂先で指した男は、泣きそうな顔で続けた。
「もう、勘弁してほしい。耐えられねぇよぅ」
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