第565話 陽が暮れる前に ②

「この男がコルテスの家令なのか?」

「あぁあぁ多分、そうだ、そうだと思う」

「では、他のコルテスの者はどうした。

 お前達を雇った者は何処だ?」

「今は、いない。」

「いつ戻る?」

「わ、わからない」

「話にならんな。じゃぁお前達の雇い主に連絡して、この者達を渡すがいい。

 事と次第に関しては、アッシュガルトのミルドレッド城塞に問い合わせよ。

 また、この者達は、公主の墓所にて倒れていた。

 我らは偶々、巫女様の墓参に付き従っていた。

 墓参以外に他意は無いと伝えよ」


 ミアの言葉に、男達の狼狽が大きくなる。

 その中のひとりが、槍を落とすと転がり出てくる。


「あんたら、本当に、中央の兵隊なのか?」


 どよどよとむさ苦しい男達が、子供のようにべそをかいている。

 ミアはさすがに表情を変えないが、どうやら、予想とは違うおかしな具合のようである。


「この東で、所属不明の獣人などいるものか。我らが何者に見える」


 女兵士は睨み据えた。

 凶暴な声の響きに、男達は口を閉じる。


「俺達は雇われたんだけだ。

 その、ここにはいたくないんだよ。

 だけどよ、ここから出て行きたくても、出ていけねぇんだよ」


 何を言っているんだ此奴らは?

 と、言う表情に、男達は口々に言い募った。


「歩いてコルテス領の城主街に行くには、峠を越えて山道をひと月はかかる。

 馬でかけるような道じゃない。

 どうやったって野宿になる。

 夜は、夜は駄目なんだ。

 外にいちゃぁ駄目なんだよぉ」


「何を言ってる?何の話だ」


「夜になると外は歩けないんだっ」


「野犬の話か?雇い主、コルテスの者は」


「いつ戻るかわからねぇって言ってんだろぉ」


「大回りになるが、川沿いを下れば良い」


「駄目だ。

 街道を回ってもおんなじだ。

 夜が、来ちまう」


「だいぶ頭がイカレてるようだね。」


 再びミアが振り向いた。

 カーンは面倒そうに再び指を振る。


「そちらの事情は、我らには関わりがない。

 この者達は、この通りの状態だ。

 医者にみせるなり、貴様らの雇い主に連絡をいれてどうにかしろ」


「そいつらしか連絡の方法は知らねぇんだよ。」


 墓守を指差し、男達が競うように訴えかける。

 これはどういう事だ?

 少なくとも、狼狽した男達が出てくるとは思っていなかった。

 それは兵士達も同じだ。

 奇妙で嫌な雰囲気だ。


「下働きでもいい、誰かコルテス家の者はいないのか?」


「俺達が来た時、人の入れ替えがあったって話だ。

 この館には誰もいないんだよ」


「そんな馬鹿な話があるか。そもそもお前達は何者だ、コルテスの雇われ者であろうが」


「俺達は、口入れ屋で集められただけだ。

 何も、何も知らねぇんだよ」


「お前達しか本当にいないのか?

 城といっていい広さの館だろう」


 もう雇われた意識も失せたのか、男達は縋るように言い募る。


「下働きの一人もいないんだ」

「簡単な仕事だって、貴族の別邸の世話だと言われたんだ」

「こいつら以外、誰も見てないんだ」


 そうして彼らは、私達に外へ連れ出してくれと泣きついた。

 一緒にアッシュガルトへ連れて行ってくれと。

 ミアは振り返るのも面倒になったのか、威嚇する必要もない意気地の無い男達に背を向けた。

 そうして私達のところに来ると、困ったようにカーンに聞いた。


「どうします?」


「脅威の確認と建物内部の探索。

 周囲の状況を把握、退路確保と撤退時の手順を決めろ。

 離脱時、分散した場合の行動をすべて決めておけ。

 最低二人一組で行動。

 行動優先順位は、訓練続行中とする。

 ザムとモルドは残せ。」

「了解」

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