第563話 忠言は届かず ⑥

 背の高い木々を背負うようにして、石の館がそびえていた。

 城館しろやかたというものか。

 尖塔が両端にあり、城壁は半ば蔦に覆われて埋もれ崩れかけている。

 館堀の橋は引き上がられており、石炭が放り込まれた鉄網の灯火が門扉の両脇に立っていた。

 水気の無い堀が建物の周りを囲むが、深く闇を澱ませており、渡る事は難しそうだ。

 外観の荒廃に比べて建物の作りは立派だ。

 だが、どうみても廃墟に見える。

 ここがコルテスの宴の館であり、人が忙しく中で立ち働いているとは思えない。

 よくよく見れば蝙蝠こうもりが、右手の大きな尖塔に群れ鳴きながら羽ばたいてる。

 外壁は苔に覆われ、黒ずんだ石が古びた墓石に見えた。

 人の気配や馬の行き来など、まったく見受けられない。

 こんな場所から、墓守達は来た。

 このように荒れ果てた場所に、女たちは集められて戻らなかった。

 私達は、門前の空き地には踏み出さなかった。

 森の縁に立ち、案内の少年を労う言葉をかける。

 訪い尋ねる前に少年を村に戻すのだ。

 送る兵士は少年を村に送った後、そのまま城塞へと走らせる。

 ユベルと合流させて、我々が戻らなかった時の対応を言付けた。

 伝令香と呼ばれる通信手段もあるそうだが、非常時使用の物らしい。

 ミア達取りまとめの三人と、カーンが一つづつ所持している。

 使い捨てで見た目は胡桃くるみだ。

 硬い球状の木の実。

 官給品の装備品で、狼煙のろしと言うか香りなのだそうだ。

 この他にも人力の伝令以外に、光や音など火薬による簡易な狼煙。

 昔ながらの鳥。

 その他に鉱石や水晶を利用した固定通信という物があるそうだ。

 水晶の共鳴共振による通信は、大陸の軍事施設に取り付けられている。

 城塞にもあるそうだが、その純度が高く傷のない水晶の産地がジグなのだ。


 浮遊船に使われる鉱石。

 通信に使われる水晶。

 ジグ周辺はそうした貴重な資源が地下に眠っている。

 何れも軍事物資である。

 だからこそ、最果ての秘境にて多くの命がすり潰されてきたのだ。

 磁場と重力も狂いきった激しい海流にある孤島。

 ボルネフェルトが置き去りにされた、あのジグ島なのだ。


「どうか、陽のある内に、皆様もお戻りください」


 一礼し帰っていく少年の背を見送る。

 やはり何度も振り返っては、不安な様子で去っていく。

 一緒に歩く兵隊が何事か喋りかけ促し、伝令は先に走り出して行った。


 すべてが繋がっている。

 生きていくこと、人が生きるという事。

 こうしたやりきれない物を突きつけられる事なのかもしれない。


 忠言を残し去る姿が消え、私達は森から踏み出した。

 導かれ、ここまで来た。

 門扉を飾る彫像は、飛び立とうとする鳥の姿だ。

 先ずはと、兵士が二人進み出る。

 そうして大きな声で訪った。


「さて、何が出てくるか」

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