第882話 モルソバーンにて 其の六 ⑪
『..領地荒廃を狙い、公爵の支配を終わらせるのならば、呪術も魔導の行いも必要がない。
そして鎮護の道行きという、土地の利益になる術を壊す必要もない。
もっと単純な暴力だけで解決だ。
おかしな話です。
術が消える事は、当初から術に織り込まれています。
国護りの術は、人の営みを変えるほどの力はない。
争いを鎮め、諍いを減らす慰霊の呪い。
それを壊し何とする?
人間同士が争う原因のひとつ、信仰、信心の話かと推察しました。
信徒の方ならば、答えはおわかりかもしれませんね。
国護りの逆とは何でしょうか?』
「どういう意味っすか?」
「神聖教では、神の創られた世界を三つにわける。
人界、冥府、天界の三領域のことだ。
生者、死者、異界の者が神の下に創られた。
神の意向により理が敷かれ、秩序が齎されたのだ。
鎮護とは、争いをおさめ秩序を求める行いだ。
それを壊すとは、秩序にさからう擾乱であろう。
擾乱によって秩序が乱されると訪れるは、世とは相容れぬ穢れだ。
穢れがくるとされるのが四番目の領域、虚無とよばれる。
魔物は地獄より来ると言うが、この第四の領域は地獄ではない。
腐土は虚無が地上に現れたと言う者もいるが、神殿は否定している。
第四とは、滅亡、それも神が失われるという事を指すのだ。」
『鎮護の道行きは、東マレイラの人々が願ったものでしょう。
そして王国も姫を国教に戻して弔った。
つまり中央王国が認めた神の元に執り行われた慰霊だと思います。
方法が呪術だとしてもです。
そしてその呪術を壊し、魔導で埋めるとは、神聖教としては悍ましい行いです。
神を否定し力を削り、世を壊すという事。
神が持ち物を奪い取るだけではなく、無にしてしまう。
この世界が失われ、意味を失う。
地獄ではなく、破滅という意味でしょうか。
地獄とは神が治める場所でもあります。
虚無とは、すべてを失うという意味になるでしょう』
「破門よりも恐ろしい事だ。
魔導とは、つまり第四が及ぼす穢れという事か」
『私は昔話の水妖が、魔導の物だとは思いません。
彼らは人と争いましたが、この土地を呪う事も穢れを振りまいたとも思いません。
公爵の昔語りにありました、水妖の双子は井戸の底に沈みました。
きっと慈悲を求めたのでしょう。
争いを止めようと尽くしたのかもしれません。
争いの場を地の底に埋め、墓とした。
鎮護の術を土地に巡らせる為に、双子は土地に沈んだのではないでしょうか?
墓の上に人を寄せ、街を築いた。
ここは墓ではない。
ここは人間の領土であるとし、暴かれぬようにした。
人が暮らす、人が平和であれと願い暮らす場所にし、その生きる場所にて得られる祈りを糧にしていた。
モルソバーンもそのひとつ、鎮護を巡らす場、墓だったのでしょう。』
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