第881話 モルソバーンにて 其の六 ⑩

『最小の犠牲で最大の効率を求める。

 成し得たのは、術者の力量だけか?

 大掛かりな魔導にて打ち消すことしかできない理由とは何か?

 順番に考えてみました。

 コルテスは儀式地として、姫の墓をオンタリオに置いた。

 では、何故オンタリオなのでしょう?

 不死鳥の館で術を乱す為に、魔導の儀式を行ったのは何故でしょう?

 人の目から隠すため?

 燃料は何処から?

 小さな風車が回るように術は巡る。

 では、動かす力は一人の犠牲で続くのでしょうか?

 息ひとつでは回り続ける事はできない。

 神は、公平であらせられる。

 ひとつの命にて、多くを贖う傲慢は許されない。

 ならば、どこかで風が吹き付けるように作らねばなりません。

 では、術に力を運ぶ構造とは何か?

 呪術法陣というものがあります。

 法陣は、現実の構造物に配置する事で、現実の事象に影響を与えて力を吸収します。

 想像しやすいもので言えば、水路の水車ですね。

 水場に術を置くのは、流れは力を動かすものだからです。

 人の目にしかと見える形のものですね。

 では、その路はいつ、何処で作られたのでしょうか?

 水の流れ、土地の道、流れとみなせる物ならば利用できる。

 そう術を巡らせる事は、思うより簡単だ。

 目的さえ明確ならば。

 さて、この不死者の王の術は、鉱毒被害を軽減するように働いていました。

 ですので、近年の災害に対応した呪術であると考えていました。

 術の大凡が水を介しているかのように見えますし、現に姫の墓はオンタリオに作られていたからです。

 ですが、鉱毒が始まりなのでしょうか?

 三公勢力が遥か昔に移住した頃からある国護り。

 と、考えたほうが自然でしょう。

 コルテス公自身の言動から察するに、この国護りは代々宗主が犠牲を捧げてきたのでしょう。

 大掛かりな開拓をし、盟約と共に儀式を執り行った。とも考えられます。

 では、もっと考えを進めましょう。

 なぜ、国護りの呪術が必要だったのでしょうか?

 領地の最初のお話、西の長命種の争いが答えです。

 水妖と人の争いの物語です。

 そもそも、この土地は水妖のものでした。

 化け物としましたが、先住民の事です。

 彼らが暮らしていたとするならば、こうも考えられるでしょう。


 例えば、この世のモノではない生き物の住処を荒らし、人が侵略し奪い取った、と。


 そして呪術にて、ここに堅牢な国を築いた。

 化け物とした相手は、相容れない価値観の相手だった、かもしれません。


 何もかもわからない。

 けれど人が住処とした場所は、元々、別の者達の住処だった。

 それだけは、確かでしょう。

 これが今回の事にもつながる。


 譲れない何かの奪い合いをしている。


 ただし、それは目に見える領地争いではない。

 元々の構造、それを駆逐しようとする争いが先にあった。

 似た構図が思い浮かびます。

 宗教統一でしょうか。

 中央王国が建てられると共に多くの信仰が衰退し、人の記憶からも失せてしまった。

 今、過去の業前が耳に届くのは、背教の徒であるボルネフェルト公爵の出現によって、遺棄神が蘇るのではないかと王国の方々が案じておられるからだ。建国記にある..』


「娘、墓の話だ。それ以外は口にするな」

(話がそれているよ。この神の徒でさえも心配になるよう言動は止めなさい)


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