第880話 モルソバーンにて 其の六 ⑨
そう、墓の話だ。
『ひとつ、何故、魔導を使うのか?
考えるに、この東マレイラには、高等呪術である鎮護の道行きという物があるからです。
簡単に言えば、守りの呪術。
神官様方が行う鎮守の術と考えてもらえれば良いでしょう。
この鎮護の道行きは、3つの領地を巡っていると推察します。
コルテス、ボフダン、シェルバンのそれぞれの公爵殿達が宗主となり、何らかの犠牲を盟約によって保つ国護りの呪法でしょう』
「お前の言う術が何で必要になるんだ?
神官が土地を清めれば、いや、ここに神聖教の威光は届いていないのか」
『政治的な理由もありますが、一番は、鉱毒の被害の軽減です。
高等呪術の影響範囲の広さを見込んだのでしょう。
この呪術を壊す事を望む場合の手段として、魔導は有効なのです。
呪術と魔導は似ておりますが、それ故に対抗手段となり得るのです。
そして一番最初にコルテス宗主が狙われた理由も、これ原因でしょう』
「話の真偽は別にして、それは何故だ?」
『コルテス宗主の役割は、他の勢力とは違う部分を担っておられるのが推察できます。
かの方は、贄を捧げる者なのです。』
「どういう意味っすか?」
「馬鹿にもわかるように言え」
『すみません、グリモアの知識を閲覧しながらですので、知識を持っていた方の話し方になってしまうようです。
コルテス公のお家は、生贄を供出する血筋なのでしょう。
もちろん、そんな蛮行を代々続ける事は無く、その時々の死者となった方々を贄と称して儀式に加えていたと考えられます。
例えば、ニコル姫様です。』
ふっとイグナシオが視線を逸らした。
何か思い当たる事があるかのような仕草だった。
「贄か」
『ただし、呪術の技法としては、この鎮護の道行きに贄一人で贖う事は不可能なのです』
「王の姫でもか?」
『一代に贄ひとり。
確かに、高貴な方を柱とするとは恐れ多い事でしょう。
ですが、命は命。
貴方も私もひとつの命に過ぎない。
そしてひとつでも大切なものではありますが、このマレイラを守るに、一人の犠牲で贖えるものでしょうか』
(同じことが君にも言えるね。
命の価値を決めるのは何かな?
ほら、考え違いがわかったかな?)
『..何をもってこの巨大な国護りが共鳴と続けているのか、続けていけるのか?
姫の尊い犠牲により、東マレイラを守る。
いかな不死の王とて、対価には足りないでしょう』
「不死の王?」
『呪術師の頂点に立つ者は、不死者の王と呼ばれます。
この国護りを施せるのは、神に近しい者以外におりません。
それほどの術であり、人の身で行える術ではありません。』
「何を言っているか、お前はわかっているか?」
『どういう意味でしょうか?』
「わからんなら、いい。続けろ」
『では、少ない犠牲で効率よく循環させるにはどうしたらよいのか?
これは何故、この術を壊そうとしたかの回答にも繋がります。』
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