第720話 人の顔 ⑩
「変異体回収時に、結論はある程度でていました。
難しい言葉はいりません。
取り繕う事をやめれば、簡単な話です。
閣下が今、考えていらっしゃる通りの事ですね。」
その公爵は額に手をあて、考え込んでいた。
「さて、中央は静観の姿勢だが、我々も手をこまねいて眺めているだけという訳にもいかない。それぞれに騒ぎが起きている場所へ人材を投入する事となった。」
カーザの発言に、モルダレオがフッと笑った。
冷ややかな笑いを無視すると、彼女は続けた。
「不穏な動きは、シェルバン領と残念ながら閣下の土地からのものである。
もちろん、閣下の帰還によってコルテスは平穏を取り戻すであろう。
さて、我々にはもう一つ、懸念材料がある。
現在、アッシュガルトにて起きている騒動だ。
ニルダヌス・バーレイ。
地獄に行く前に発言を許す。」
空っぽの男は、瞬きで返す。
あいからわず、そこに目立った感情の動きは無い。
なぜ、私は空っぽと思うのか?
簡単だ。ワタシならできるからさ。
何をだ?
「はい、何から話せば良いでしょうか?」
「最初からだ。」
それに一旦、考え込むと彼は言った。
「ロッドベインの反乱以前になりますが?」
カーザが絶句するのがわかった。
そしてバットルーガンが何かを言いかけて、カーンに睨み据えられ口を閉じた。
二人を威圧で黙らせると、彼は大きく息を吸い、ニルダヌスへと頷いた。
ニルダヌスはカーンに許しを得て、静かに首肯し続けた。
「ご質問には全て答え、我が身の処刑をもって真実と宣誓し、バルドルバ閣下への恭順の証とします。」
そう言いおき、彼は目元を少し緩めた。
安堵だろうか。
彼はカーンの傍らに座る私を見て続けた。
「巫女様にはお耳汚しでしょうが、聞いていただけますか?」
何だ。
何を言う気だ?
支配が、解けたのさ。
「私は過去、魔導師なる者に縋ったのです。
巫女様はご存知でしょうか?
破戒を担う愚かしい技を持つ者に縋ったのです。
私は、いえ、彼らではない。
私が罪を犯したのです。」
ザラリとグリモアが開かれ、知識の開示がなされる。
あぁ止めてくれ、そんな真実は知りたくない。
「魔導師と呼ばれる者をご存知でしょうか?
彼らは常に罪深い者を探しています。
罰を与える為に、この世を巡っているのです。
人の愚かしさを見つけては、ふさわしい罰を与える。」
「何だ、それは?」
バットの呟きに、ニルダヌスはぼんやりと微笑むだけだ。
魔導師。
おとぎ話の魔法使いではない。
彼らは嘗て人の枠より自らこぼれ落ちた者だ。
罰を与えるため。
復讐を遂げるため。
神の掌より自らこぼれ落ちた者だ。
罰を与える者とは?
文字通りの意味ぞ。
彼らは拷問師であり、生き物全ての知識をおさめる学者でもある。
宮にもいよう、裁定者の事ぞ。
裁定者が死者の宮にて役割を与えられたように、彼らも又、この世の不実を嘆き自らを捧げたのだ。
同じであろう?
悍ましい力を持ち、絶望と死を司る。
その手にあるは、因果と復讐の種。
違いはと言えば、罪人を苦しめよと願う女の叫び。
子を奪われし母の願いを抱えている事か。
そして不死者の王が配下である。
グリモアの知識に背筋が寒くなる。
つまり全てが網の目のように繋がっているのではないか?
無意味に見える事々は全て因果によって繋がっているのではないだろうか?
それは、つまり..
故に、魔導師も又、神の下僕といえるのだ。
私がこの世に戻され、人の業を見よと諭されたように。
彼らも又、役割がある。
罪は何処にある?
ニルダヌスは、どんな役割を渡されたのだ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます