第250話 神ではない

 胴体と尾の動きは、蛇だ。

 ただ、尾は蛇の物にしては、鋭く尖っている。

 時折、その尾が地面を叩き、左右に動いて物を壊していた。

 その太い胴体からは、七つもの首が伸びていた。

 それぞれにゆらゆらと首をくねらせ、あたりを見ては鳴いている。

 そうして蠎は身を捩り、街の中へと入り込もうとしていた。

 独特の動きだ。

 口から何かを吐き出す時の動作に間がある。

 それならばと距離をとりながら、私達は蠎の後ろへと回り込む事にした。

 街の住人たちはどうしているのだろうか?

 出入り口は、川と外殻によって街道沿いかフリュデンへ続く道の二箇所に絞られている。

 普段ならば十分安全であるが、これでは逃げ場を塞がれた囲いの中にいるようなものだ。

 それも害獣は出入りが自由で人が逃げるには難しい囲いの中だ。

 女子供、年寄では、低い石積みの境界壁でも登って逃げるのは困難だ。

 多分、フリュデン側の街の門を開放して逃げ出す事になる。

 城は外殻門を閉じて、戦う事になるのか?

 私達は、押し黙ったまま、生焼けの木々を縫うように進む。

 風に乗って、笛と号令が聞こえた。


「領主兵が出ましたね。攻撃命令の笛でしょうか」

「武器が通じますか?」

「急ぎましょう」


 振動で馬が少し興奮し、鼻を鳴らした。

 尾の動く範囲から逸れるように、横に回り込む。

 境界壁に体を乗り上げた蠎は、鳴き、歯を剥く。

 その全面には、歩兵、軽歩程度の装備が並ぶ。

 彼らの射る矢が、鱗の表面を滑って落ちるのが見えた。


「威嚇にもなりませんね」


 それでも統率はとれている。

 鎌首の位置を確かめては、少しづつ後退しては射るを繰り返していた。

 やはり刺さらなくとも、それは蟒を苛立たせたようだ。

 化け物が動きを止める。

 痛手を受けたからではない。

 羽虫の動きが邪魔なのだ。

 領兵を見やり、首をうねらせ、それから大きく首を引き。


「吐きますね」


 兵士は一斉に後退し距離を取る。

 今回は炎だった。

 壁の内側、検問所だった場所は灰だ。

 そこから炎が移り、トゥーラアモンの城下が延焼していく。

 一旦、歩兵は後退。

 代わりに、その後ろから重歩兵と多数の大型弩砲が引き出された。


「あれは?」

「槍を射出する据え置き型の兵器です。

 古い時代の物で単純ですが、硬い敵には威力を発揮します。

 投石機よりも狙いがつけやすいですが、まぁ時代遅れの骨董品です。それでも的が大型獣で動きの遅い相手なら、使えるでしょうか。」


 槍と言ったが、弩砲に設置された代物は、柱のように太く鋭い金属だった。


「あれで仕留められないと、厄介ですよ」

「厄介?」

「動きを封じる事ができないで、傷だけを負わせたら、一瞬で決着がつきますよ。兵士達のね」


 私は固唾を飲んで見守った。

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