第702話 帰路にて ⑭
「さて私の古い家臣、父に仕えていた者の一人に、政変時、王都にいた者がおります。
その者が今も健在なれば、一度お話になるのも良いかと考えています。
これも私がコルテスに復帰した後の話となりますので、昔話も一応これにて終わりです。」
何と考えてよいかわからず、カーンを見上げる。
「何を聞かせる気だ」
「私の話の裏付けと、どうしてこんな話をするのか納得いただくためですね。
まぁその顔を見れば、己が領地の不始末をおさめるのが先と言いたいのはわかりますよ。
ですが今更、急いだところで私の終わりは変わりません。
それよりも若い方々の不穏な先行きが気にかかる。
これも老人特有のおせっかいというものでしょうか。」
「何か、あるんだな。貴殿の、この出来事と何か繋がるんだな?」
「おや、爺ぃ呼びは終わりですか?
つまらないですね。
まぁいいでしょう。
すべての世の事柄に、繋がりなき事など何ひとつありはしない。
と、考えるのは愚かですよ。
何もかも、人の考えの枠にあると思うのは短絡的でしょう。」
「よく喋る奴は、だいたいが何かを隠しているものだ」
「よくおわかりですね。
そんな貴方に、私の嘘がわかりやすくなるよう、ひとつ話を付け加えましょうか。
あぁ姫は聞かなくてもいいですよ。
寝ていた間のお話ですからね。
おや、聞きたいですか?まぁいいでしょう。
私は嘘つきだと正直にいいました。
昔話、私の記憶、私と妻だった姫の思い出の中にある時間を話しました。
記憶は常に上書きをされる物です。
年寄りの昔話は、常に美化されるもの。
そんな私が、貴女が寝ていらっしゃる間に話した事。
バルドルバ卿に伝えたお話の中で、おかしな部分があります。
私の言い間違い、記憶違いだと思ったかもしれませんね。
私はバルドルバ卿に昔々のお話をしました。
死んだ人は誰か。
行方知れずの人、死んだといった人。
妻にした精霊種の方。
第一位后は誰と言いましたかね。
長命種貴族の妻はどうなったのでしょうか。
女の人を集めた理由。
探した相手の事。
処刑の理由は言いましたが、処刑を誰がしたのでしょう。
殺された人は誰でした?
誰の死因でしょうか。
誰が死んだのでしょうか。
私はあえて、語った中で人名をあげていません。
嘘、ですからね。
だから、同じ人を言っているようで、同じ人をさしてのお話ではありません。
いいですか、同じ人ではありません。
貴女を姫と呼ぶように、誰の事を言っているのか、わからないようにしています。
死んだといったはずの人が、行方知れずだったり、そもそも誰が誰やらという矛盾だらけの昔話でした。
時系列も少し変ですね。
そして姫にお伝えしたお話と卿へ伝えたお話、卿の知識は少しづつ違います。
それは当時、真実を切り刻み嘘で包み隠したからです。」
「面倒くせぇ話だぜ。」
「それでも、分かったはずです。
何を私が言いたかったのか。
誰を問いたださねばならぬのか。
誰が嘘つきであるのか。
そして精霊種のお話は、嘘ではない。」
それにカーンは視線をそらした。
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