第315話 風花 ②

 それに辺りをぐるりと見回す。

 美しい古都は、影も形もなく。

 囲む森林でさえ燃え落ちていた。


「祭りの後にたどり着いた。

 おかげで戦う相手なんぞいなくてな。

 遊びに来たわけでもなし、死体を掘り返して焼くことにした。

 それで、お前を見つけた。

 急に泣くから、驚いてもう少しで殺すところだったぞ」

「なんで」


 やっと絞り出した声に、カーンはニヤッと笑った。


「死体が動き出したと思ったんだよ。運がよかったな、石壁の下敷きになっても生きてたんだからよ」


 蠎が死に、城が崩落してから五日が過ぎていた。

 私が掘り起こされたのは昨日。

 死んでいると思ったそうだ。


「だんなが?」


 カーンは目をそらし笑う。

 それからいつもの、人の悪い笑みを浮かべた。


「神官がな、臭い臭いと騒ぐんでな。仕方無しにいちばん臭い場所を探していたんだ。

 そうしたらお前が掘り出されたんだよ。」


 私はガクガクしながらも口を曲げた。


「街の生き残りが世話したから、それほど不愉快な事にはなってないだろう?本格的に手当して身綺麗にするのは、この後だ。

 まぁ冗談はさておき、左足は何とか砕けてねぇが、圧迫が長かった。感覚はあるか?」


 真面目な顔で聞かれて、私は何となく俯いた。


「ある。でも痛い」

「痺れはどうだ?」

「ないです、サーレルの旦那は?」

「生きちゃぁいるな、まぁ、うん無事だ」


 微妙な感じで言葉を切ると、カーンは私の膝裏に腕を通して持った。

 そう抱き上げるとかではない。

 ひょいっと、片腕に乗せると座らせた。

 急に頭の位置が変わり、頭痛と吐き気に呻く。


「野晒も何だ、気がついたんなら医者に診てもらおう。それから口に何かいれる。震えは何も喰ってないから余計に辛い」


 私が目を回しているうちに、カーンはさっさと歩き出した。

 風花がちらちらと降る

 吐き気に霞む目に、風花が降っている。

 けれど、暖かい。

 毛織物だからではない。

 誰かが生きて側にいる。

 私は胸が痛くなり、空を見上げた。

 夢の中と同じに、重苦しい色合いの雲が流れていく。


「雪が降り積もるほどじゃなかったのも、幸いだったな。

 吹き曝しじゃなかったから、凍死もしなかった。」

「なぜ?」

「ん?」


 何を問う?

 にもこうして又、出会った。


「なぁ、この白いのってのは、普通の雪とは違うんだろ?」

「お山の雪が風にのって、まばらに、落ちてくる」

「ふ〜ん」

「晴れ、る」

「先に水分とるか」

「吐く」

「医者だな」

「うん」


 ちらちらと白い破片が舞い、痛みと暖かさに何も考えられない。

 いや、何も考えたくない。

 もう少しだけ、現実は見たくなかった。

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