第654話 挿話 兵(つわもの)よ、剣を掲げよ盾を押せ 上 ⑩
意味がそれぞれに浸透するまで、サーレルは一旦、口を閉じた。
腐土。
彼らにとっても、腐土とは忌まわしく、憎むべきものである。
国土を蝕むものであり、人への試練の場だ。
過去、故郷を襲いし病の嵐があった。
それと同等以上の出来事であり、身をもって防がねばならぬ大事である。
今も腐土を封じ込めようと様々な手が尽くされている。
城塞の愚か者どもが等しく憎まれるのは、その腐土にて己が命を惜しみ、仲間を見捨て、汚染を広げたからだ。
あれ等は、見捨てた。
それも己等が逃げ出す為、唯一残されていた東の海岸線、つまり海路を潰したのだ。
東の通商路を一つ潰した。
だからこそ、
己等が指示し据え置いた癖にだ。
まぁそれはそれ、サーレルにとっては、興味がない。
何もしなくとも彼らは終わると知っている。
それはイグナシオにとってもだ。
彼の興味は、腐土に蠢く神敵どもである。
欲深い者同士は、お互いに殺し合えばよい。
そして問題は、この東マレイラで何が起きているかだ。
疫病にしろ、腐土にしろ、それと同等の異常な出来事が起きるというのなら、防がねばならない。
防ぐために浄化が必要ならば、等しく命を刈り取り、土地を焼き尽くさねばならない。
それがイグナシオの使命である。
「ここでも同じ事が起きるのか?」
「判断材料を揃えるのが先です。
今、わかっている、推測段階の事ですね。
それを並べてみましょうか。
まず、感染している段階、変異の前ですね、血液中に卵の存在が認められる。
血の中に卵があるのが、感染している条件です。
体調不良とならず、自覚症状がない者も含まれます。
この卵が血中にある宿主は、あたりまえですが死亡していません。
それが何らかの条件が加わると、幼虫になります。
因みに寄生虫とは別種の幼虫、奇形腫だと医者達は考えています。
幼虫になると、健康状態の悪化が顕著になります。
この段階でも宿主は、死んでいません。
さて、幼虫がいても、宿主は通常の人と変わらず生活ができますし、この段階でも血液濾過で経過観察をすれば、まぁ一応症状の進行は押さえられるでしょう。
もちろん、その付帯条件があるかぎり、実現は無理筋ですが。
さて、この幼虫が、また何らかの条件が加わると活性化します。」
「その条件とやらはわからないのか?」
それにサーレルはニヤッと笑った。
「医者達は、こういうものであろうと推論を出しました。
推論ですね。」
「お前は推論ではない何かを知っている。
だから、間違いではないが正解でもない。
そんな余計な話しをさっきからしている、違うか?」
「私の語りに嘘は無いですよ。
用意された答えが複数あるために、言えないだけです。
言っても信じてもらえないというのが本当のところでしょうか。
つまり、医者達も私も、信じられない答えなのです。
で、続きですが。
幼虫は、宿主が仮死状態になると爆発的に増殖します。
それらは脳の前頭葉部分の神経細胞に向かう。
簡単な言葉を使っていきますよ。
人間としての行動や考え方の部分を侵略していきます。
それと同時に延髄、生命維持をする部分へも入り込みます。
精神と肉体の両方を侵略し支配下に置くのです。
肉体はこの時、仮死状態ですが、生前の
そして変異が始まるのです。
仮死状態から戻ると、今度は血中の寄生虫、卵から孵った方の虫が更に増殖を始めます。
虫が出す物質によって正常な細胞が変化していくのです。
虫が増殖すると、今度は肉体が死んでいくというのが妥当な表現でしょうかね。
書き換えと言いましたが、正常な細胞のかわりに、新たな細胞が増殖していきます。
本来の細胞は、と、まぁ詳細な説明は無しでしたね。
細胞にも寿命があるのですが、この増殖する細胞は、悪さをする物と同じく糧があれば死なずに増え続ける代物です。
生きた人で言う病変と同じですね。
それらが増殖を続けていくと、元の部分は枯れ果てて死ぬ。
彼らが捕食行動をするのは、この増殖に必要な糧を摂取する為なのです。
医者達の説明は、更にあるのですが、貴方がたが知りたいのは、もっと簡単な話しですよね。」
「長々と言っておいて、それか。で、どうしたら発症するんだ?」
「違いますよ、どんな奴が化け物になったのか?でしょう。」
「ほざけ、で?」
「人族長命種。
確実に発症するのは男。
マレイラ出身者、ですよ。
面白いですよねぇ」
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