第5話 蛇の兵隊
状況はあまりよくない。
鷹の爺達は、一昨日の明け方に領主館に呼ばれたそうだ。
冬の夜に領主館を訪れた客の所望だった。
客とは、王国軍の旗を掲げた騎馬数騎と歩兵。
兵を率いていたのは、二人の男。
片方は貴族階級のきらびやかな兵装。
片方は金のかかった長衣を着ていたそうだ。
辺境の平民に、その装いの意味はわからない。
が、領主の北方辺境伯は腰を折って出迎えたそうだ。
それを見るだけで、どれほどの権力階層かはわかる。
付き従っている兵も馬も、豊かであったため、領主の兵も迎え入れるに不審はなかった。
何しろ、公王の使者たる正式な依頼書があったからだ。
彼らは、鷹の爺らを呼びつけ、領主を従え森に向かったという。
どんな話し合いがあったのかは、わからない。
鷹の爺らを呼んだ後、領主を取り囲むとそのまま森に分け入ってしまったそうだ。
慌しい様子だった。
まるで、もう一人の自分を見たような様子だったそうだ。
婆は、狩人の御召しを不審に思い館に来ていた。
そんな婆や、奥方や姫、そして館に常駐する領主兵に、領主、御館様は、言い聞かせた。
決して後を追ってはならないと。
彼らは確かに、中央王国の使者であった。
だが、何故、冬の森へと領主ともども向かうのか?
なぜ、後を追ってはならないのか?
その疑念は、今になっても戻ってこない事に、不安にとって変わった。
狼狽する家令、家臣、奥方が話し合いをしていると、到着したのが彼らだ。
そして婆は、次に来た男達を見て悟った。
蛇だ。
領主や爺達には悪いが、読みを間違ったのだ。
王国の兵隊だろうが、公王の命令だろうが、話を聞いてはいけなかったのだ。
蛇の兵隊。
つまり、粛清者と呼ばれる者共だ。
戦犯や犯罪者、貴族や大公など、難しい立場の人間を粛清する集団である。
追い返すことはできない。
そして、彼らこそ森で死なせてはならない。
鷹の爺の孫が言ったように、森に喰わせるのは簡単だ。
だが、彼らを生きて戻さねば、どんな祟り神が出てくるかわからない。
粛清者を使うのは王家ではない。
古参貴族の集団だけでもない。
支配者層の貴族、軍部の上にもう一つ存在している。
本来は、古参貴族や功績のある人間が選ばれる元老院という制度がある。
この元老院という制度の中で、長期の戦争を続けるにあたり、実効支配組織が出来上がっていた。
この組織は、軍部、国教の宗教団体が主導権を握っており、本来の政治形態を破壊。
元老院という別の組織が組み上がっていた。
もちろん、その頂点に座るは公王という王がいるのだが。
だが、こんな辺境の狩人の耳にまで、その威勢が届くのだ。
久方ぶりの停戦も、彼らが成したという。
戦争をするのも、貧民に施すのも、元老院だ。
ならば、粛清者を貴族の領地に放つのも、彼らであってもおかしくはない。
そしてそんな子蛇を殺して、大蛇がわくなどあってはならないのだ。
蛇なぞ春まで寝ていればいいものを。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます