第85話 さようなら ②
「お前は何を知っているんだ。」
「何のことです」
「奴の行き先を知っているんだな」
「落ちて転がってたんで、知りません。
さぁ帰りましょう。
旦那は、あの男を斬った。
もう、死んでいますよ」
「それを判断するのは俺だ」
「死んじゃいますよ」
「余計な世話だ。小僧、お前こそ自分が死なねぇように、気を張って案内しろや」
「旦那、無礼を承知で言いますよ。
旦那は、中央の人だ。
死んだら、それこそ私の村は燃やされかねない。
わかってほしい。
土産ひとつで満足して帰ればいいんです。
獲物を隠すつもりはないし、反抗したい訳でもない。
ただ、旦那が生きていないと困るんですよ。
私はね、領主様方や村の皆に、お咎めが向かないなら、些末なことはどうでもいいんです。
ここで余所者が行方不明になっても、どうでもいいんですよ。
でもね、旦那は駄目だ。迷惑なんですよ。」
重ねて迷惑だと言うと、何故か男は態度を和らげた。
「お前の村を焼くような事はしねぇよ。ひとまず、出口に向かうぞ」
***
碧い色の道を選ぶ。
碧い色は中空で踊りながら、道を示す。
よくよく目を凝らすと、小さな人の形が踊っている。
この宮には、たくさんの色が踊っていた。
侵食が進んでいるのか、私の視界にはたくさんの色が飛び回っている。
寂しい場所のはずなのに、とても賑やかだ。
ここの住人もこの色を見ていたのだろうか。
だとしたら、陽の光りもいらないだろう。
石の都で十分だったのかもしれないな。
そんな事を思いながら、碧い道を進む。
静かだ。
化け物にも人にも出会わない。
静かだ。
後ろを歩く男は沈黙している。
疑われているんだろうな。
当然だよな。
私だったら、死霊術師の傀儡になったのかって思う。
それに宮の呪いにかかり始める頃合いだ。
疑念は深く大きく育っているだろう。
それでこの男の手にかかって死んだらどうなるのか?
供物としての役割が果たせないばかりか、男は宮に囚われる。
早く、この男を外に出すことが肝要だ。
私自身が正気のうちに、正しい行いをするべきだ。
結果が、正しいかは別にして。
そんな迷い歩きも、直ぐに終わった。
果てのない迷路も、碧の道を選び続ければたどり着く。
門だ。
人の目を欺く何かがあるのだ。
色で言うなら、黄色と赤色が遊んでいる。
死霊術師の円環は赤かった。
そう考えると、色は力、魅了する言葉という奴だろうか。
お伽噺みたいに、他人事だったらいいのにな。
通路の道幅も、終わりに近づくと大きく広くなっていく。
そして見通す先には石の門があり、手前が広場になっている。
整えられた石畳の上に、精緻な紋様が刻まれた立派な門だ。
二枚扉も石なのか、表面には彫刻があった。
広場の手前で足を止める。
確かに、色は碧だ。
迷路の先、出口の扉。
碧い色。
碧い色に重なる微かな、微かな色。
意地悪だなぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます