第162話 トゥーラアモン ②

 既に宿の前には、馬が引かれていた。

 それぞれに馬具を調節したりと忙しそうだ。

 私の馬も準備してくれている。

 礼を言いつつ荷物をのせた。

 既に男達は、いつもの支度になっており、顔は覆われ表情は伺えない。

 それでも一言二言、気をつけていくようにと声をかけてくれた。

 人は不思議だ。

 最初の出会いを思い出せば、お互いの関係性は格段に穏やかだ。

 特に、癇性な雰囲気のイグナシオは、私とエリを案じて苛ついた言動を繰り返している。

 自分が行きたいと言っているが、他の全員に却下されていた。

 そして同行するサーレルの存在を、イグナシオは無い者としている。

 当のサーレルはいつもどおり、得体の知れない笑顔と穏やかさで聞き流していた。

 エリはそんな男どもに、ペコリと頭を下げる。

 礼のようだ。


 それにカーンは何も言わなかった。

 ただ、口元だけを埃よけから覗かせ、ニヤッと笑った。

 そして胸元に拳をあてて、騎士の返礼をすると出発した。


 私達は、騎影が見えなくなるまで見送る。


「さて、神の国の煩い男もいなくなりましたし、気楽にいきましょうか」


 急に朗らかにサーレルは言うと、近くの屋台で揚げ菓子を買い込む。

 それを私達に配ると、楽しそうに言った。


「いやぁ、実は今、休暇中なんですよ。

 まったく休ませてくれないですけどね、休みなんです。

 名物食べて、骨休みしたいんですよ。

 トゥーラアモンって何か、美味しい物とかありましたかね。

 北の茸料理とか興味あるんですよ。」


 サーレルに促され、馬を北東の道へと進ませた。


 ***


 トゥーラアモンは、藍色の常緑樹に囲まれた古い街だ。

 ゆっくりと道を進みながら、サーレルが語る。


「中原の貴族領では、小領地にあたります。

 けれど、領主は代々古い貴族の方々です」

「由緒正しいということですか?」

「由緒正しい、古い人族の方々ですね」


 つまり、長命種族で血統主義者の可能性がある。


 人族でも特に長命な種は、短命種族の倍以上の年月を生きる。

 彼らの多くは、その寿命の長さ故に、亜人や短命な種族を下に見る傾向にあった。

 獣人も同等の長命な種族もあったが、短命な種族も多く、そのような寿命の長短に価値を見出す事はなかった。

 あくまで、長命故に尊いと考えるのは、貴族の血統主義の者たちである。

 ただ、この血統主義とは、長命種人族の根底にある変えられぬ価値観でもある。

 他人種の血が混じれば、彼らの権利、支配に影響があるからだ。

 混血を憎悪し、獣人を奴隷種と見、亜人や少数の種族を下等とする。

 古い貴族で長命種族が長く支配してきたからこその考えだ。


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