第187話 中原の魔物 (下)

 既にエリに話していた部分を簡単に語る。

 そしてトゥーラアモンの話に移ろう。

 これは何処かの話ではない。

 トゥーラアモンの昔々だ。

 ここがいにしえの都跡と言われているのは、先住の民がいたからだ。

 後に王国民が侵略支配し今に至る。

 先住の民とは今の亜人種であり、侵略者とは長命種がしめていた。

 まぁ大まかにね。

 そして今現在のアイヒベルガー侯が、その末裔か否かを私は知らない。

 だから、これは昔々の物語、トゥーラアモンの出来事だけど、ここに今いる人達と同じじゃないって事は覚えておいてね。


 ***


 乱暴に集められた馬は、街の側の大掛かりな囲いに入れられた。

 領主は集めた馬の中から、老いた馬や負傷した馬を処分するよう命じた。

 いらない馬たちを肉にしたんだね。


 このお話の馬を、先住の民という人もいる。

 けれど、これは馬のお話だ。


 さて、これに領民はおののいた。

 年老いた馬なら放逐ほうちくし、傷をつけたなら手当をすればよいのだ。

 まだ、走れもする馬もいた。

 怪我をした馬の為を思って止めをさした?

 ちがうけど、これにも理由はあるんだ。

 領主は迷信を払拭ふっしょくしようとした。

 それと同時に支配の力を見せつけようとしたんだね。

 領主は、たかが畜生の報復を恐れるとは無知な輩である。と、断じた。

 兵士は無意味に馬を屠殺し、見せしめとする。

 それは新しい支配を行き渡らせる目的もあったんだ。

 けれど不用意に慣習を破る行為は、領民に不安と疑いだけをいた。

 領民は何処かで、領主が狂っているのでは?と、思ったんだ。


「民族の融和ゆうわには時間がかかる。

 そしてそれは力を示すだけではみぞが深まるだけなんだ。

 相手を否定するのは簡単だ。

 お互いがお互いを恐れているからね。

 自分を否定しないように、相手も否定しない。

 自分を受け入れるように、相手の意見も受け入れる。

 妥協をせよという話じゃないんだ。

 ただ、間違いだと叩き潰そうとしてはいけない。

 どこまでがお互いに歩み寄れるかを話し合うべきなんだ。

 もちろん、一切の話を聞かない。

 暴力を振るう輩には通じない話だ。

 でも、自分の権利を主張するなら、相手の考えも聞いてみるべきだと思う。

 勿論、それはとてもむずかしい事だ。

 怖いことでもある。

 信用ならない相手の場合、全てを強奪ごうだつされるかもしれない。

 だとしてもだ。

 それは勝者がしてはいけないことだと思う。

 信用も信頼も、殴りつけても手に入らない。

 けれどそれの何が悪い?と、領主達は思っていたろうね。

 彼らは支配した者から信用も信頼も得る事を必要としていなかった。

 何も彼らから学ぶことは無いと思っていたんだ。

 だから、この場所でも同じことをした。

 殴りつけて従わせれば済むことだって。

 馬狩りをした者達は、自分たちの方法暴力が一番だと信じていたんだ。」


 けれど、領民の不安は現実になっていく。

 領主の様子が次第に可怪しくなっていったんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る