第753話 それが愛になる日
疲れた。
これ以上、色々と考えても、私の頭が働かない。
私は教会には戻れない。
カーン曰く、彼らと共にコルテス行きだそうだ。
疲れた。
頭に浮かぶのは、ぼやきだけだ。
あの本は何だ?
カーザとバットの事情?
ビミンやニルダヌスの事にしても、未だに消化できない。
よくわからないし、よくわかりたくない。
他人の強い感情、苦しみや憎しみに晒されるのは辛い。
部外者の私の立ち位置、心の置き場所がわからないのもある。
彼らの人生である。
グリモアもカーンも手出し無用というし、それは正しい忠告であるとわかる。
わかるが、私はどうしようもなく狼狽してしまう。
向き合ったところで空回りし、徒労感で疲弊するのにだ。
今も疲れた疲れたと思いながらも、頭の中が加熱するほど色々と思い浮かぶ。
本の毒、魔導の事もある。
魔導という概念には興味がある。
グリモアの興奮だけでなく、私が興味を覚えていた。
だが、今、それを考えたくない。
何も考えたくない。
考えてしまうが、私は今、考えたくないんだ。
疲れた。
数日中に移動だ。
これ以上、新しい何かを考えたくない。
疲れたのは、体力が落ちているからだ。
教会でビミン監督の元で少し戻った肉が、あっという間に消えた。
体重が減少し、触れれば肋があたる程だ。
元々の怪我と病、環境の変化、おまけに虫下し。
損傷はグリモアが回復したが、その後もいけなかった。
もちろん、四肢を重くする原因はそれだけではない。
私の在り方。
頭の中を巡るのは、目にした出来事だけではない。
それに対する私の在り方だ。
カーンならば、また無駄で余計な事を考えているなっ!と、言いそうだ。
開封による制裁によって、己の情けなさに気がつく。
私は口では何と言おうと、力を得て傲慢になっていたのだ。
当然のように呪術を行使し、当然のように魅了の言葉を紡ぎ動かす。
必要だったとしても、誰かを守るにしてもだ。
私は力に依存しつつあった。
理由、言い訳はできるだろう。
今も多くの人に助けられているし、利用できる物は利用すべきでもある。
だが、それで楽に流されていないといえるのか?
この疲れは、己に対する失望もある。
人は己に甘い。
誰かの嘘を見たら、それこそが己が姿だ。
誰かが怒りを向けるのなら、それこそが己が打算と驕りを疑はねばならない。
考えすぎ?
もうずっと、カーンの叱る声がするぞ。
わかってる、私だって何も考えたくない。
でも、勝手に浮かぶんだ。
次々と己への不満と言葉が流れていく。
楽に流れ、打算と驕りを甘受し、傲慢になっていないか?
小難しい事を捏ね回すんじゃねぇ!
もういいや、幻聴じゃなさそうだし。
反論しながら、私は自分の足りない部分が至らなさの原因に思えた。
私は多くの情けや愛によって育った。
肉親の愛は無いが、それでも不足なく人の愛によって生きてきた。
だからこそ、村から離れる事もできた。
私は彼らが好きだし、彼らも私を好いてくれていると信じる事ができた。
だが、そんな彼らから離れると、いつも側にあった感情に気がついた。
孤独だ。
それは親兄弟のいない私だから感じる物ではない。
と、最近わかった。
孤独は、近しい人に囲まれていても側にある。
親がいても伴侶がいても、子供がいてもだ。
その孤独を埋めるため、依存を選んではいないか?
ぞっとする考えだ。
孤独は人である限り、常に側にあるものだ。
それを埋めるのは、依存ではない。
愛することだ。
だが、この愛する事は、とても私には難しい。
正解だとは思うんだ。
けれど、難しい。
だって、誰かを愛するって怖いじゃないか?
無駄な事を考えているなぁ、馬鹿だろ?と、
幻聴だよね..
煩いです、疲れてるんです!
じゃぁ考えるの止めろ?
やめられないんですよ!
..欠けた己を補うのは依存ではない。
依存は要求だ。
私はそんな弱い人間になりたくない。
強情に思う。
そう思わないと駄目だ。
独り占めしないで分け与えられる人でいたいのだ。
そうでなければ、いずれ口にしてしまうだろう。
言えばいいだろう?
嫌だね。
私はいいたくない。
助けて、なんて言いたくないんだ。
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