第144話 宿場の夜
エリを後ろに乗せ、墓地へ向かう。
焼いた遺骸は、掘り起こされた墓穴に埋めた。
未だにチリチリと煙をあげている灰も、この後の雪に消えるだろう。
エリはじっと村を見て、墓地を見て、灰を見る。
馬の背で振り返り、村を見ながら去った。
程なく、あの蛇体の岩が見えてくる。
緊張する私に、エリは肩を叩く。
そして岩の上を指さした。
男達が先行し、私の馬が最後尾だった。
だから、気がついたのは私とエリだけだ。
薄暗い森の中、ぼんやりと白く滲む岩の上に、小さな蛇がいた。
愛嬌のある顔の蛇は、鎌首をもたげてこちらを見ると、チロリと舌を出す。
エリが手を振ると、蛇はスルリと姿を消した。
それでも彼女は手を振る。
私も振り返り倣うと、エリは少し唇をあげた。
友達か?と聞くと、彼女は頷いた。
友達。
私の中で、それは矛盾しない。
それが少し悲しい。
前を向く。
以前、通り過ぎた時の禍々しさが無い。
石は相変わらず奇妙だが、あの威圧感は消えていた。
そうだ。
恐ろしいのは夢にあらわれる蛇ではない。
人を殺すのは同じ人。
罪を犯したのは、化け物ではない。
先を行く男達は、道に迷わぬようにと、縄や紐で所々に印を結びつけて進む。
今回遭遇した事を、彼らはどのように考えているのだろうか。
死体を焼却した彼らは、気がついているはずの事。
井戸からエリが出てきたことで忘れていたが、遺体の殆どが女だった。
男は老いた者か幼い子供。
では、いるべき男はどうなったのだ?
男女に別れて戦った訳でもあるまい。
他にも疑問がある。
村の中で争いがあったとしても、滅びるほどの理由が見えない。
離散して終わるのがせいぜいだ。
まるで殺さねば逃げられないとでもいうのだろうか。
それに爺達の地図に記入されていたのだから、村の成立は古いはずだ。
勝手に造られ村ではないと思う。
では誰の領地なのか。
それにあの蛇体の岩は何だ。
ただの岩には見えない。
エリが大人なら、色々問いただした事だろう。
(答えはある)
「いらない」
そうして気が付かぬ事、気がついた事は多々残った。
だがエリを加えた道行は、順調に進む。
道は広くなり、石畳は逆に無くなる。
程なく、以前迷ったことが嘘のように、すんなりと本街道にでる。
湿った空気も消え、吹き付ける風もどこかしら軽い。
そこからは馬の様子を見ながら駆けた。
エリはあまり馬に慣れていないようで、私にしがみつき目を閉じている。
調子をあわせるように声をかけ続けていると、程なく視界が開けた。
北領の殆どを覆う森林を抜けたのだ。
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