第364話 幕間 禁忌の扉 ⑤
「じゃぁ、多少乱暴でも、文句は無しですよぉ〜」
そう言うと、オロフは肉体を変化させた。
獣人の言う擬態を解き、肉体をより戦い向きに変える。
重量獣種の肉体は、戦闘種らしく自在に変化できた。
ひ弱な王族など、荷物にもならない。
彼はひょいとコンスタンツェを肩に担ぐと、部屋の窓から外を伺う。
「もう一段階、体を変えますんでビビらないでくださいよぉ。
あっちに着くまで喋らないでくださいねぇ。俺も口がうまく回らんのでぇ〜」
言葉通り、次の瞬間にコンスタンツェの体は浮いた。
浮いたと思った時には、風を切る。
耳を切る夜風の音。
そしてオロフが跳躍するたびに、その肩が腹を押す。
軽々と運ばれるがその動きは乱暴で、コンスタンツェは終始、口からうめき声が押し出された。
だが何としても面会しなければならないと、必死に堪えた。
そうして漸くオロフが立ち止まる。
「うわぁ、予想以上に警備が増えてるっすよ。これ誰の所為っすかねぇ」
「無理か?」
「誰に言ってるんですかぁ、それよりもコンスタンツェ様」
「何だ」
「ここまでぇ〜運んでおいてアレなんすけどぉ、女の子に何するんです?
場合によっちゃぁ、帰りますよぉ〜」
背負われている分、コンスタンツェにはオロフの考えが直接読み取れた。
なので側で揺れている耳飾りを、引き千切る勢いで捻り上げる。
そうしてお互いの考えを確認した後は、無言で神殿内部に入り込んだ。
再びの侵入、それも深夜である。
前回は、コンスタンツェが昏倒したため全てが有耶無耶になった。
だが今度は、仕置が確定だ。
と、運ぶオロフは考えていた。
しかし雇い主の必死な有様に、彼も同じく仕置を受ける覚悟だ。
それでも次の雇い主には、倫理に反する場合の抵抗条件を明文化しておこうと思った。
次の雇い主が決まる前に、商会長からの仕置で死ぬかも知れないが。
そんなオロフであったが、多数の神殿兵をやり過ごし最奥に位置する巫女棟の庭側に回り込んだ。
日頃の態度や外見から破落戸と侮られるが、オロフの能力は高い。
護衛代金も破格の王族付、疾風絶影などというオロフでさえ嫌がる渾名がつくだけはあった。
そして価格に見合った仕事ぶりで、見るからに高そうな大理石の壁の内側に降りる。
壁には様々な彫刻が施され、最奥の部屋の庭も中々に芸術的な装飾で溢れていた。
目的の部屋は静か、未だ降り立った無法者には気がついていない。
薄暗い窓辺から伺い見れば、老女の巫女と少女が一緒に眠っている。
どうやら少女の身を案じ、部屋に常駐するようになったようだ。
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