第373話 幕間 怒りの矛先 ⑦

 屋上を走ったか。

 きっと女子棟外門にいたのだろう。

 壁抜けも予想していたのか、すぐに気がついたようだ。

 異変を感じ屋根伝いに最短距離で走り抜けたのか?

 今は見る影もなく潰れ崩れ落ちた残骸。

 屋根葺きの薄板だ。

 重量獣種が鎧込で走り抜ければ、当然、屋根も割れる。

 つまり走り抜けた箇所もなおさなければならない。

 ジェレマイアは他の建物も修繕箇所を見積もらねばならないなぁと思わず漏らす。


「それでやっと私も目が覚めましたよ、あれで神殿中が起きたのでは?夜番の者が呼子を吹きましたしね」


「落ちてくるまで、私はわかりませんでした。

 寸前で、お付きが主人を抱えて逃げた。

 さもなくば、旦那はあの御方を真っ二つにしていたと思う」

「それまで寝入っていた私が言うのもなんですが。

 神殿兵はだいぶ緩んでいるとわかりました。」

「賊は討伐が基本だが、状況みりゃぁ殺さなくてもいいって分かるはずなんだよ。言っとくけど、やりすぎだからな。

 更地にするほど戦わなくたって、カーンなら余裕で捕縛できた仕事なんだよ。それで?」

「お付きの人が旦那の剣を押さえた。

 それに旦那はお付きの人を投げ飛ばして、それからあの御方に剣を投げました。」

「腹に穴でもあいたか?死んでないとは聞いているが」

「衣服を剣で壁に縫い付けました。あれです」


 塀の残骸に見た穴は、コンスタンツェを縫い付けた大剣の跡だったようだ。


「衝撃で気絶したようで。お付きの人は降参したんですが。カーンの旦那は、そのまま殴り始めて」

「それでどうしてここまでの被害に?」


 それには巫女頭が答えた。


「処刑されると思ったのでしょう。

 ゴート商会の護衛が、殿下の命乞いをする為に抵抗を続けたのです。

 中央軍の方は、多分、二度とこのような事がおきないように躾けをなされたのでしょう」

「殺されると思って抵抗したか」

「その位でないと、効果が無いと思ったのではないでしょうか?

 中央軍の方、バルドルバ卿本人が対処したのです。

 甘い対処は最初から望めません。

 ですがお言葉や建物への被害は酷いものですが、不法侵入を行った殿下は軽い打ち身だけです。結果としては配慮していだだけたようです」

「わざと派手にやったか」


 それに巫女と少女は目をみかわした。


「何だ?」

「多分ですが、卿は護衛と殿下を処刑するつもりだったかと。

 女子供の前での殺生を控えられたか、私達を気遣って、多少の情けを残してくださったのでしょう。

 お言葉はお話にはなれませんでしたし、聞いたわけではないのですが」

「どういうことだ?」

「擬態を半ば解いての仕事ぶり、ゴート商会の護衛も最後は獣化して対処を。

 破壊が酷いのは、重量同士が転げ回ったせいです。

 請求書は殿下で宜しいですが、侯爵様に言ってゴート商会の方へも色々と申したいと思っています。」


 ヨーンオロフとカーンは、同重量の獣人種だ。

 苛立って話し合う前に、暴力になだれ込んだか。

 本能抑制の加工が切れたか。

 呪いの影響だ。

 ジェレマイアは、思うより呪いの影響が深い事を案じた。

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