第372話 幕間 怒りの矛先 ⑥

 そんなジェレマイアの様子に気をつかったのか、少女が口を開いた。


「お客人が、夜に」

「お客人ではございません」


 ぴしゃりと巫女頭が遮る。


「不届き者が警備の者に捕縛されただけです。

 祭司長殿は、早く処理に向かってください。」


 少女がおろおろと、二人の顔を見る。


「あぁ大丈夫だよ。

 お客は、本神殿でもてなしてる。

 死んでねぇよ」


 表情から、自責の念にかられているようだ。

 彼女の所為では無い。

 そう言ってもやりたいが、それで彼女の心苦しさは薄まらないだろうとジェレマイアは思った。

 だが、侵入と接触を許したのは、まわりの大人だ。

 それにこの不必要な破壊は、馬鹿どもの責任である。


「後で又来るよ。気に病みなさんな」

「祭司長様」

「何だね?」

「私の、所為です。

 方々に責任は無いのです。

 私に、償う方法がなくて、口で謝っても何にも、どうしたら」


 少女は言いよどみ、唇を引き結んだ。

 その姿を馬鹿どもに見せてやりたいとジェレマイアは思う。

 彼らに欠片でも自責の念があればよいが。

 大方、彼らは自分の主義主張を正しいと言い切るだろう。


「勝手な事をした責任は彼らにある。

 そしてここまで、ぶっこわした責任も彼らにある。

 大人はね、理由があったとしても、それを言い訳にしてはならない。

 君は、おとなしくしていた。

 彼らが馬鹿をやった。

 それだけだ。

 それで、あの馬鹿は、君に愛でも囁きにきたのかい?

 そうなら、少々どころか、しっかりと罰を与えねばならないからね」


 最後に戯けてみせると、少女は気まずそうに言った。


「話し合う前に、旦那とお付きが殴り合いを始めたのです」


 どうやら起きたことを話すようだ。と、ジェレマイアは立ち去りかけていたのを少女に向き直る。


「あの御方は、不安でこちらに参られたのでしょう。

 だから元はと言えば、私の所為なのです。

 ごめんなさい、言い訳、ばっかり」

「謝らずともよいのです。

 貴方の非は、暴漢の誘いにのった事のみです。

 それさえも、賊の都合の良い言い訳。

 ここに暮らすという事は、俗世の者とは会わぬという意思表示。

 そしてそれを無理やりに押し入った者にこそ、その責任と罰が与えられるべきなのです。

 そしてこの破壊は、神殿を守るべき神殿兵の責任ですし、外部を頼ろうとした神殿長の采配が原因です。」


 淡々と言い切った巫女頭の視線は、祭司長を凝視したまま動かない。

 つまり神殿長はもちろん、お前も許さない宣言だな。と、ジェレマイアもつとめて表情を変えないようにしながら思った。


「いいえ、私が原因なのです。

 あの御方も皆様方も被害者。

 グリモアが弱い私を守ろうとした。

 私を守ろうと、主に忠実な者を得ようとしました。

 病苦や苦しみからの解放をうたい、あの御方を私に近づけようとしました。

 私もあの御方と話し合わねばと考えていました。

 だけど、その前に」


 少女が指さした先には、地面が円を描いて抉れている。


「その前に、カーンの旦那が降ってきました。」

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