第523話 運命の糸車 ⑥
「書き残しちゃ駄目なんですよね」
「覚書ぐらいだな。
地図を持ってるのは領主貴族からだ。
それも国が許容できるような代物だ。
お前個人の落書きも、物によっちゃぁ咎め立てされる。
頭の中に描けるようにしておくのが無難だなぁ」
「やはりそういうものなんですね」
「多分、お前は領主のところで、地図とやらをよく目にしていたんだろう。
正確な地図があったらと考えるのは、その所為だ。
でもな、下々は、自分の暮らす周辺だけを把握していればすむし、他の領地の詳細な地図を手に入れたいと思っちゃぁならん」
「利便性より保身ですね」
「商人も仲間内だけの落書きはあるが、地図は頭の中にだけだ。
それに狩人の爺らと狩り場の覚書を持ってたろ。
お前らの覚書なら咎め立てされる事も、まぁ無いだろう。
だが、口実にされる事もある。
お前らだけの内輪でわかる落書きにしとくのが無難だ。」
「関所での身改めで、地図のような物が見つかったら、どうなるんですか?」
「状況によるし、鑑札にもよる。
楽しくない話になるのは、予想がつくんじゃないか?」
「なるほど」
「話を戻すが、位置関係としてはこうだな。
南に海がある。
それを背にして北を見ると、手前からアッシュガルト、城塞、フォックスドレドだ。
城塞から土地が高さを増して、フォックスドレドから高地になる。
それより北東方向に広がるのが、東公領。
首を戻して北西はフォックスドレド、そしてオンタリオだ。
オンタリオ上流の更に北がコルテス内地。
アッシュガルトの海岸線東廻りに進むと、シェルバンや他の東の貴族領を繋ぐ街道だ。
オンタリオから流れ出す川が直轄地を含めての中央防衛線だな。
もちろん、同じ王国の領土内だ。明確にはしていない。」
「オンタリオ湖の西側が、さっきの話の荒れ地でいいんですよね?」
「そうだ。
今はあまり感じていないが、このオンタリオも標高が高い。
コルテスの鉱山もだ。
だから更に標高がます山々を、人が越えようとする事は無理だ。
この地形が政治状況にも影響を及ぼしている。
わかるか?」
「唯一の陸路がアッシュガルト側の街道ですか?」
「荒野を突っ切るにも騎馬行軍もできない。
物資輸送も街道の方が早いだろう。
ボフダンは極東だが、その港から船を出したとしても海流の関係でアッシュガルト港に立ち寄らねばならない。
シェルバンは、コルテスとボフダンに挟まれているので、このアッシュガルト以外に外部への働きかけができない。」
「流通の要所だから、ミルドレッド城塞ができた」
「そうだ。
ここを東の三大貴族共が仲良く利用し、中央政府と揉め事を起こさないように見張るのが、ここの犬どもの仕事だ。
付け加えると、ボフダンから低空航路便は東南まで運行していたが、現在は腐土が封鎖された為に、ほぼ永久停止だ。
残るは海路のみで資源のやりとりを南部と行う事になった。
だから余計に、このアッシュガルトは重要になった。
本来、東の者共は、争っている場合ではない状況って訳だな」
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