第764話 それが愛となる日 ⑫
私が固まっていると、コーは悟ったと言わんばかりにウンウンと頷いた。
「詫び代わりに一番高いのを出してくれって話だったしな、これ以上だと装飾が多くなるが、確かこっちに」
慌てて更なる品を引き出そうとする手を制する。
「迷うか、なら、どれが一番、好き、だ?」
オービスの言葉に唸る。
どれも素晴らしい。
けど、不相応だと思うんだ。
私の様子に、彼は笑うとコーに言った。
「どれが、この子、の為に、なる?」
それにコーは、少し首を傾げた。
「まぁ強いて言えば、これだ」
と、一本を指さした。
「刀身は長めだが、切れ味は一番だ。
片刃だが先端は両刃の拵えで、これのお陰で何にでも使えるだろう。
狩猟にも戦闘にもな。
なによりアダマンタイト合金だ。
刀身に特殊な研ぎが必要だが、その研ぎも殆ど必要がない。
劣化もしないし切れ味も、まぁアダマンタイトが欠けるような使い方なんぞ、お嬢ちゃんぐらいの力ではありえねぇしな。
もし、研ぎが必要になったら、アダマンタイトが加工できる工房になる。
結構な金がかかるかもしれねぇが軍支給品だし、軍系列の工房なら安くなる。
その為の証明書類も出せるし、番号が柄を取り外せば刻まれてるから、物だけ持ち込んでも大丈夫だ。
普段は、軽く水分と油分を使用後に拭うだけで手入れは終わりだ。
どうだ、実用的で手間いらず、軍のアダマンタイト製品は世界一だぜ」
と、商人の口上めいた説明がなされた。
「どう、する?」
どうするも何も、ここまで素晴らしい品に否は無い。
実は説明途中で、すごいなぁ、これなら鹿の解体も楽だなぁ、等とのせられていた。
そんな私の了承を得ると、コーは鞘と剣帯を取り出す。
「奇をてらう必要はないから、普通の物だ」
私の体に合わせる為に、コーがしゃがみ剣帯の長さを調節する。
義足は良くできており、関節も自然に曲がる。
それを見ていると、彼は再び歯を見せた。
「嬢ちゃんは、獣人になれてるなぁ。
俺みたいなのを良く見かけたのかい?」
頭を振って否定する。
それにコーは目を見開いた。
獣面でも、意外に表情が読めた。
「まぁ俺は女にモテるからなぁ。
特に人族の女にはモテモテだ、あはは」
「くだらん、事を、子供に、言うなっ」
「はいよ、まぁ若旦那もモテモテだぁな」
「コルベリウスよ」
「冗談冗談、なぁ嬢ちゃん。
獣面を怖がらねぇってだけで、嬉しくてよぅ。飴ちゃん食うか?
これ、柑橘飴な」
と、紙に包まれた結構な大きさの丸い物を渡される。
そして内緒話のように手を口にあてて、普通に大きな声で彼は続けた。
「この若旦那、好みじゃない重量の姉御どもにモテモテでよ、逃げ回ってるんだぜ。
美人は美人でも華奢で可愛らしいのが好きだってのによ。
追っかけてくるのは、野獣みたいな女ばっかりでぇあだだだっ!」
「子どもの教育に悪い下品な物言いは止めろ」
オービスは、むんずとコーの耳を握ると捻り上げた。
南部言葉を私が理解していないと思っているので、そのまま暫く説教を続けた。
だが、それでも冗談を続ける相手に、最後にはオービスが負けて手を離すのだった。
「じゃぁな、お嬢ちゃん。
その飴は棒付きだから、中に一緒に入ってる砂糖を時々つけながら食べるとうまいぜ。
味変な、味変。
王都の菓子だぜ。
もし、王都に行ったら五番街の菓子屋を覗いてくれよ。
俺の孫の店だ。
店の名前?
砂糖の木って名前だが、まぁ俺とおんなじ獣面だぁ、すぐにわかるぜ。
獣人の先祖返りの菓子屋なんぞ、王都でも一軒だけだぁぜ。がはははっ」
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