第601話 群青色の朝 ③
悪い事はわかる、けれど。
正しいことが、わからない。
『また、妙に難しい事を考えているね。まぁ呪術師としては、正しいよ。
子供としては駄目だけどね。
理屈ばっかりこね回す子供なんて嫌なものだ。
でもそんな難しい話にしなくても、君だってわかっているだろう?』
自称墓守は、同郷の者を殺している。
術を阻害する目的で人を集め、近隣の女を集めた。
キリアンと名乗る何者かの命で。
『王が施した術を穢した。
神罰を受けるに相応しい。
神罰、おかしいと思うかい?
不死者の王は神そのものではない?
神ではない?
まぁ彼の定義はどうでもいいのさ。
彼が
わかるかい?
神が求める秩序を構築する事は、正しいのさ。
人が求める正しさとは別種で、血塗れだったとしてもね。
神の意向に逆らったら、駄目でしょ?
どんな神であってもね。
まぁそんな神のお話は置いておいてもだ。
彼らは人を殺した。
無辜の民や不運な輩をね。
証拠はない?
いやいや、もう、
神の怒りの手痕だね。
罪人決定だ!
理由はあるかも知れないが、彼らは悪いことをした。
そういえば、君の呪いの元となった
だから彼らも理由如何では許したいのかな?
とってもとっても偽善だね。
ここで肥やしになろうとしている愚か者どもも助けたいかい?
慈悲をかけるかい?
聖人のように、正しいことを説いて改心させるのかい?
悪い冗談のように、改心させて墓穴でも掘らせるかい?』
カーンに対する助命は、取引だった。
彼は私と村人を傷つけてはいない。
誰かを無差別に殺してもいない。
生業として、人の世界の枠組みの中で生きている。
彼は辺境の子供に慈悲をかけるし、傷ついた子供に菓子を買う細やかな良心も備えている。
餓狼の如く、支配下のものを傷つけはしない。
もちろん、これは私の立場、私だけの
何が違うのか?
違わないかも知れない。
けれど私は思う。
彼は、私の中では、違う。
貴方は優しいと伝えても、きっと認めないし大方の人も認めないだろう。
けれど。
蔦に巻き取られた者どもと同列に彼を語る事は不愉快だ。
それに私は善人でも聖人でもない。
自分勝手な人間だ。
わかっているだろう?
お前達こそ冗談が過ぎるぞ。
『まーねーだってぇ、芸術を解しない愚か者ってぇ嫌いなんだよねぇ。
完璧な芸術的術を、野蛮な行為で壊そうとするなんてさぁー。
実際、壊せるわけないのにさぁー、皆ぁ怒ってるんだぁぞぅ』
力によって与えられる感性は同じである。
ふざけた物言いに同意はしたくないが、上位の呪術者の業は美しかった。
青白い奔流、恐ろしいほどの無邪気な気配。
異界を構築しながら、自然界にある生命の流れを取り込み奔らせる。
閉じた世界であるからこそ、永遠の歩みが続いている。
死霊を引き連れているというのに、清浄を保ち、向かうは永久の安寧への道。
歩む姿は美術品のようだった。
その美しい在り様は、調和を得ているという意味でもある。
異形の行軍になっていたのは、根幹が揺るぎもしないので生半な干渉では崩れなかったからなのだ。
そうだ。
術の目的は不明だが、何某かの護りである事はわかる。
だが、それは現実的な護りではない。
現地民への行き届かぬ支配を見ればわかる。
だが、壊すことに意味と意義があった。
そこで墓守と称する輩は、手間暇をかけて術を破壊すべく行動した。
だが、王の力を阻害する事ができなかった。
無駄な殺生などを行ったのかも知れない。
だが神に勝つわけもなく、神罰が広がった。
無差別に。
いや違う。
連れてこられた男たち、村から徴集された女達は、罰当たりどもが術を壊す為に用いた。
だが、術は壊れず持ちこたえ、そして
『どんなお花が咲くのかなぁ』
黄泉の花が咲く事になったのだ。
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