第171話 紋章 ②

 絵画のように美しく、情緒に満ちた街並み。

 ゆっくりと馬を進める。

 行き交うのは男が多く、女子供、年寄りの姿が見えない。

 商店は開いているが、活気はいまひとつ。

 街全体がざわざわと落ち着きが無く見えた。

 街角に配置された兵士の所為だろうか。

 通りの角、目につく所何処に兵士の姿がある。

 侯爵の兵士か、騎馬の数は多くない。

 物々しい装備を見るに、何事かが起きたことは明白だ。

 中央の噴水のある広場に馬を進めると、城の方角から騎馬が走ってくるのが見えた。


「おや、思ったよりも早かったですね」


 騎馬は広場に駆け込むと、乗りては素早く降りた。

 近場の兵士が駆け寄り、手綱を引き取る。

 乗り手はそのまま私達に近寄り、少し離れた場所で胸に手を当てた。

 私が慌てて馬を降りようとすると、サーレルが引き止める。

 そして彼は騎馬のまま前に出ると、城から来た騎士に頷いた。

 対する騎士は、胸に手を当て二度程叩く。

 叩かれた装備が鳴り、それから少し腰を屈めた。

 利き腕が後ろに回され、敵意が無いことを示される。


「王国の方とお見受けする。

 我はいにしえの名を引き継ぎし、トゥーラアモンの者。

 名を名乗る事、お許しいただけようか」

「許します。

 我は、アギレオに連なる者。

 故に、トゥーラアモンの名乗りを受け入れましょう」


 形式的な挨拶はここまでのようで、迎えに来た男と共に場所を移る事になった。

 因みに、アギレオとは、王国軍最古の軍団長の名前である。

 つまり、中央王国軍の所属という意味だ。


 私達は、そのまま城下町を抜けた。

 侯爵の城館は小城塞内だ。

 中心は侯爵の城館。

 城館を囲む内殻と呼ばれる高く硬い城壁が囲み、そこには侯爵と氏族が暮らす。

 その回りを囲むのが家来衆の居住地と兵舎、侯爵の官吏が働く役所だ。

 行政施設の外側を囲むのが外殻という巨大な城壁である。

 城壁内は侯爵の兵力が置かれる施設も兼ねている。

 外殻の外側がお堀で北側の河の流れが引き込まれていた。

 そしてお堀の南側がトゥーラアモンの城下だ。

 平城の作りながら、アイヒベルガー侯の居城は、非常に守りが堅い。

 ただ、平地の城である限り、外殻が破られ内殻にて籠城戦になるようなら、負け戦である。

 そんな事にならぬように、城下を大きくし境界壁に金をかけているわけだ。

 私達は、その内殻にある役所に案内された。

 城壁は分厚く聳え立つ。

 それを潜って直ぐに役所はあった。


「ここで暫くお待ち下さい。

 領地差配の者と、記録をもってまいります」


 エリの人別照会を最初にする事となった。

 それと同時に、あの処分した死体の事も人別と照らし合わせて確認するのだ。







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