第770話 手紙 ④
通路は暗く狭く、ついでに寒い。
湯冷めしないようにと毛織物の肩掛けを頭から巻きつける。
一人だったらちょっと怖い。
妙に人の気配だけがあり、薄暗いので怖い感じ。
それでも秘密の通路のようで、少し面白いのが救いだ。
通路はすぐに階段になっており、出入り口は下働きが迷わぬようにと階層と番号が内側にはあった。
もちろん、自由に動き回れる訳ではなく、階層を行き来する内戸には鍵がある。
数字の目盛りを合わせて鍵を開くのだ。
鍵は月毎に変更するので、階層の番号を覚えるは大変そうだ。
その内扉から階段通路を登り降りして目的の階層へと近道をする。
出入り口は何れも目立たない場所に通じており、扉自体は目立たない作りになっていた。
私が戻るのは、十四番目の扉である。
護衛の人にも確認した。
『僕達が覚えているよぅ』
まぁグリモアに頼るのは最終手段だ。
砦の狭い範囲で迷子になったからと魔導書にお伺いをたてるのは、どう考えてもオカシイだろう。
『まぁ予言書が迷子の道案内するとか、僕達もちょっと楽しいかも』
それは結構だが、お代は払わないぞ。
『冗談だよぅ』
目的の階層に到着。
振り返って護衛の人を見ると頷き。
それから身振りで少し待てと言われる。
扉を少し開いてから、外を確認。
どうぞ、と身振り。
誰もいないようだ。
扉はカーンの部屋から少し離れた場所にある。
奇妙な木彫りの置物の影だ。
『何で南部の巨大蛙の木彫りがあるんだろう..』
これって実際にいる生物なの、か。
『うん、これ十分の一の大きさだね』
やっぱりこんなに大きくはないよね。
『..十分の一の小さな木彫りって意味だよ。
ちなみに湿地帯に生息してて雑食だから、子供は近寄っちゃだめだよ』
何でこんな木彫りがここにあるんだろう..。
『魔除けにはなりそうだね。
お陰で、罰当たりと遭遇せずにすんだね。よかったよかった』
何だかモヤッとするよ。
コソコソするの何だか嫌だし。
『同意、したいところだけど。
災難は避けるに限るよ。
貰い火は困るからね。
これ以上は関わっちゃァならない。
これは警告じゃないよ、決定事項だよ。』
湯冷めしそうだ。と、思いながら部屋の扉に手をかける。
護衛の人にも頭を下げて、何事もなかったようにテトと共に室内に入った。
...
...
...
どういう意味だ、それは神が介在した警告、いや違うのか、それじゃぁまるで..
『おっと考える必要は無い。
君は君の運命に向き合う時間、まぁつまりお節介も程々にしないと。
それに他人の事を考える前に、湯冷めして風邪を引かないようにするのも大切な事だ。
自分の頭の蝿を追うのが先だよ』
まぁ確かに。
私の行いで知らずとどめを刺す事にもなりかねない。
テトと共に暖をとるべく暖炉に向かった。
***
『君はきっと助けようとするだろうね。
君は慈悲を与えようと奔走するだろう。
彼らは知らなかったんだよ、なんて考えてさ。
残念だけど、彼らの軽挙妄動のお陰で多くの犠牲が払われたのも事実だ。
君が彼らの代わりに償うと考えるのは間違いだろう。
君はその間違いに苦しむ。
そんなの僕達は嫌だよ。
罪人は忘れ、君だけが苦しむ。
君の傲慢として、苦しむ。
でもさ、人間が死のうと生きようと、神の寛恕はかわらないのさ。
ほら、許してるだろ?
だから彼らは、まだ、生きている。
我が神が、君と同じく許し給うた訳だ。
我が神はね。
どっちが先に彼らを変えてしまうのかなぁ。
化け物になるか、喰われて蛆になるか。
きっと君は憐れだと、助けようとするんだよね。
小さな過ちだった。
けれど天地を割る結果になってしまった。
君が知ってしまったら、きっと彼らに許しをと願うだろう。
だって、本当に小さな欲をかいただけ、嘘をついただけなのだから。
人間ならば誰だって欲をかくし、嘘もつく。
だから許してほしいと。
きっと君は自分の命を差し出して願うだろうね。
これですべてを滅ぼさないでって。
大丈夫さ、大丈夫。
滅ぶのは悪い物だけだよ。
大丈夫、大丈夫さ。
きっと人間じゃなくなるだけさ。
きっと大丈夫。
君は神の怒りを受けるモノとは関わらない。
だって、僕達は君が好きだからね。
君が思うより、知らないところで僕達は君を守っているよ。
それにさ、食べなかった子もいるんだよ、きっと全滅はないさ。
彼らは食べちゃった、いや、食わせられた、かな?
相手のほうが上手だったよね。
食べてしまったから、彼らはもう逃げられない。
混沌の神は盲目だからね、囮に使われてお終いさ。
まぁ君には知らせないように僕達も手をつくした。
見えてしまったら、困るからね。
まぁ混沌の神が下に居を構えようとしているからね、我が神も目を閉じた。
目を閉じたのさ。
きっと楽しい事だろう。よかったよかった。』
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