第362話 幕間 禁忌の扉 ③

 次に目が覚めたのは、自室の寝台の上だ。

 熱と痛みに朦朧となる。

 乳母やの一人が心配して薬を飲ませてくれる。

 彼女は多少噂好きだが、おおよその感情に裏表がない。

 時々、愚痴が多くなるくらいだ。

 長く仕えてくれる者、子供の頃からの付き合いの者の多くが、コンスタンツェの能力を許容している。

 後ろ暗い事がない者にはどうということもない。

 日常の悪感情、小さな嘘ぐらい誰でも持ち合わせている。

 そんな感情なぞ別段特殊な能力など無くとも、態度や表情で伝わるものだ。

 読まれたところで、それがどうした。

 と、考える者だけが側にいる。

 それにコンスタンツェは、己の能力を制御できるのだ。むやみに他人のいらない思考など読みたくもない。

 ふと、怒っていた元乳母やを思い出す。

 彼女は普通の混血だった。

 それでも父親が長命種である為、混血の子としていらぬ苦労をしてきた。

 故に、コンスタンツェの事をよくよく世話をし、気にかけてくれた。

 それも実父の事情により、神仕えとなった。

 碌でもない遺産相続の争いから退くためにだ。

 久方ぶりに顔を見たが、元気で何よりだ。

 詫びに何かを贈らねば、と彼はぼんやりと思う。


「気が付かれましたか、お倒れになって3日でございますよ」

「何があった?」

「神殿で倒れられたのを覚えていらっしゃいますか?」

「あぁ」

「医師が参り、説明をいたします」


 程なく王家の専属医師が数名、部屋に入ってきた。

 今までにない、その人数に彼は首を傾げた。

 熱と痛みはあるが、それほどの重病なのか?

 では、いよいよお迎えが来たのか?と、コンスタンツェは愉快に思った。

 だが、医師達が告げたのは、予想外の事柄であった。


 コンスタンツェに、眼球ができた。


 この冗談に、彼は悲鳴をあげた。

 鎮静剤を打たれ、曇る意識に彼らは続けた。


 閉じた頭蓋が開口し、眼球と思しきものの形成が確認できる。

 ただし、通常の人の眼球とは異なり、非常に奇妙な形状をしていると。

 顔面は急激にできあがった瞼などを保護するため、確認は今暫く待つように。

 悪性の物かも知れぬから、決してこれが通常の眼球であるかどうかの判断ができるまで、光りに晒してはならない。


 嘘ではない事をコンスタンツェは知っている。

 彼らがあまりにも恐れ慄いている為、触れずとも感情が伝わってくるからだ。

 たかだか数日で眼孔ができ、目の組織が形成される訳がない。

 ましてや瞼が出来上がるとは。

 いつも顔に巻き付けていた布の代わりに、今は厚手の柔らかな包帯が巻きつけられていた。


『原因は何だ?

 王家の病?

 失う事はあっても、新たに何かを得ることは無い』


 天蓋の寝台の中で、コンスタンツェは医師に説明を求めた。

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