第572話 人の業 ③
安い賃金にケチをつけ。
厳しい労苦に文句をつける。
生活が成り立たないと不平を言っても、大きな変化は嫌がった。
困った困ったと言いながら、誰かが助けてくれるのを待っている。
己ではなく、誰か都合の良い助けを待っていた。
もちろん、彼らが全て悪い訳では無い。
誰しも、辛い時は助けを求める。
求めるべきだ。
カーンが言いたいのは、己も足掻いたうえで助けを求めろという話だろう。
強い人間になれと言っているのではない。
けれど、やはり人は誰しも間違いを選ぶ、選んでしまう時がある。
彼らの弱さは憐れだ。
憐れ、ここにたどり着く選択を選んでしまった。
ただ、彼らも女達を集める行いに加担していたとしたら?
憐れなのではない、愚かだ。
「まぁ、悪事に加担していたかどうかはわからんしな、耳が痒かろうと作り話を聞かねばならん訳だ」
「嘘だとしてもですか?」
「嘘にも材料が必要だ。
材料までも嘘を集めるには、此奴ら程度じゃぁ無理だ。」
「妄想かもしれませんよ」
「妄想でも、少しはわかる事だってあるさ。
ほら見ろよ。
此奴らは、恐れている。
コルテス内地から、来た。
それも最近だ。
飯も喰ってる様子だし、長くここには居着いていない。
ここは荒れ果てているし、外は野犬が群れている。
だが、全員が無事じゃない。
ここに入った男達は、女と同様、大勢だ。
村人が知るほどに男達が運び込まれていた。
だが、今は、何処にいる?
わかるだろ?
女達を集めた行い。
それは継続していた。
だが、此奴らは最近やってきた。
知っていたかもしれないが、知らなかったかもしれない。」
「確かに」
そんな彼ら、同じような考えで寄り集まる男達に、声をかけてくる者がいた。
鬱々と考えのまとまらない男達を待ち構えていたのか、良い仕事があると持ちかける。
もちろん、口入屋には内緒だ。
口入れ屋を通したくないのは、相手方が貴族だからだ。
仕事内容は貴族の別邸の修繕だ。
それも住まわせる相手の事を知られたくないという。
体面を保つため、噂話を広げないために、内緒の仕事というわけだ。
だから、男達からは金はとらないが、口止めだけは約束してほしいといういう。
仕事に向かう先の事も、誰から仕事をもらったかも、誰にも言ってはならない。
家族にも友人にも、誰にも言ってはならない。
これさえ守れれば、お前達は食事と寝床まで用意された、楽な仕事にありつける。
金までもらえるんだぞ?
「おやっさんに聞かせてぇなぁ」
男達の話の合間、背後のザムが呟く。
それにモルドが肩を竦めた。
「強突く張りの傭兵団の頭の事だ。
金までもらえるんだぜってのが口癖なんだよ」
カーンの注釈に、ザムが続けた。
「もちろん、塵屑野郎のお前らを使ってやってるんだ。生きて空気が吸えるだけ有難がれっていう前口上つきですけどね」
「こんな感じですよ。
金がもらえるか、だと?
そりゃぁ働いたらな。
だがよぅ塵屑野郎のお前らの働きなんざ、たかが知れてやがる。
忘れてねぇよな、お前らは塵だ。
その塵を集めて使ってやってるのは誰だ?
塵に金をやるってのは捨てるって意味だ。
ありがたがれよ。
塵が金までもらえて働けるんだからよぉ。
だから、文句は無しだ。
働けねぇなら、ここにはいらねぇ。
生きて空気が吸えるような楽な暮らしができる身分だと思ってやがるのか?
冗談じゃねぇぞ、塵屑ども。
豚の餌になりたくなけりゃぁ、とっとと賞金首でも仕留めてこいや。」
「似てる、そっくりだ」
物真似をしたのか、モルドの言葉にザムが笑った。
「まぁつまり楽な仕事なんて無い。
塵ためのような傭兵集団の奴らでも、わかる話です。
彼らの話を聞いたら
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