第768話 手紙 ②

 グリモアに人類学を教授してもらうのはいいとして、話を戻すが風呂だ。

 もちろん混浴は勘弁してもらい、ちょっと眺めるだけで終わりとした。

 グリモアの言によれば、女性用の風呂があるはずだ。

 さて、何処に?

 と、困惑していると、その辺にいた大柄な兵士が女性兵を引っ張ってくる。

 どうやら風呂に入りたい子供に、案内をつけてくれたようだ。


『その辺にちょうどいる暇人なんかいる訳ないでしょうが。

 君に気を使って、ちょっと離れた位置で見守ってたんだろうし。

 ほら、あの間抜け顔見てよ。君が大浴場に彷徨い込みそうになって大汗かいてるじゃない。』


 わかってる。

 一応、護衛の人間が常にいるのはわかっている。

 わかってるけど、考えたくないことは考えない。

 私は、女性用の風呂に行くのだ。

 皆、黙り目を閉じるんだぞ。


『僕達は紳士だしぃ、霊体人格だしぃ。

 君はそもそも気にもしていないしね。

 でもいちおう黙るよ。

 はぁ当代は女の子だもんね。

 本来なら、僕達も女性の人格をもたせるべきかも。

 でもさぁ元々、守護者の為のオラクルだ。

 するとは誰も思っていなかったしねぇ』


 雑音を聞き流し、女性用の風呂に向かう。

 案内された風呂も中々の広さだった。


「任務交代時間の合間なんで、誰もいないようねぇ。

 一人で大丈夫?

 お姉さんが一緒に入りましょうか?

 ん?

 声がでないの?

 心配ねぇ。ん?

 大丈夫、何かあったら笛を吹くから?

 お利口さんねぇ。

 あぁ団長のところの子なのね。

 入口で番をするから、もう行け?

 やだ、こんな髭面が女湯の前で待ってるの?

 殺意わいちゃうわ?

 護衛、なら、ちゃんと見張るのよ。

 はぁ心配ねぇ。

 仕事行け?アンタが引っ張ってきたんでしょ、腹立つわねぇ」


 という案内の女性兵に見送られて念願の風呂に入る。

 洗い場で体を洗う。

 石鹸類も常備されていた。

 さてさてと、浴槽に向かうが、私一人貸し切りみたいである。

 湯加減は少し熱めだけれど、柑橘類の匂いのする湯だった。

 薬草も浮かんでるし、中々にすばらしい。

 因みにテトも一緒に入っていいと言われた。

 念入りにゴシゴシ洗った。

 猫だけど、テトは風呂に慣れていた。

 姫と一緒の頃も風呂が好きだったのかも知れない。

 そんなテトは湯船に浮いている。

 湯も平気のようだ。

 猫なんだけどなぁ。

 端から見ると死骸が水に浮いているみたいだ。

 もちろん気持ちが良いらしく、何かぶつぶつ独り言を言っている。

 湯は常に流れているので、排水口の網に向かっているが、大丈夫だろうか。

 水面でくるくるしているが、大丈夫?大丈夫らしい。


 入浴規則で、日に一度は入れとなっているとか。

 勿論、非常時は例外だろう。

 常に集団生活の衛生管理は重要らしく、置かれた石鹸も高級な物が常備されている。

 この風呂以外、城塞の生活用水の至るところで温水が多用されていた。

 体を洗う場所が、風呂以外にも様々な場所にあるらしい。


 因みに動力炉によって加熱された水に、寄生虫はいない。

 濾過施設を通し、更に高温加熱後の水は無菌である。

 寄生虫は死滅し、旨味である水の鉱物も除去済みだ。

 風土病や重金属汚染を気にする事無く利用できる水だった。

 だから、風呂の水を飲んでも問題はない。

 飲まないが。

 それからテト、それ以上排水口に近づくと溺れるから、こっちに来なさい。



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