第647話 挿話 兵(つわもの)よ、剣を掲げよ盾を押せ 上 ③
小隊の面々による出立前の儀式を終えると、イグナシオは重武装の最後の仕上げをしに武器庫へと向かう。
専用の装備の他に、効率よく遠方の敵を爆殺できる投擲武器を受け取る為だ。
この出掛けの忙しないやり取りは、イグナシオの希望ではない。
爆発物の配布は、出撃直前と規定にあるのだ。
「例のモノは持ったのか?」
同じく特殊な武器を受け取りに行くサーレルに、イグナシオは声をかけた。
儀式場からの流れで一緒になっただけで連れ立って来た訳では無い。
そして珍しく不機嫌な様子を面に出している男に、一応の気遣いで声をかけただけである。
「書簡は準備万端ですよ。
これで存分に、忌々しい純人族主義者を根絶やしにできますね〜」
と、傍らの男の視線に、サーレルは肩を竦めた。
「
何も直筆の命令書を掲げて、威を借りようとは思ってもしませんし。ただ」
「何だ?」
「シェルバンに潜り込ませていた者達が殺られましてね。
化けの皮が思わず剥がれてしまいそうです。
憂さを晴らそうにも、ここの馬鹿者どもの相手も飽きましたしね。」
「飽きる?」
「予想通りの動きしかしない鼠なんて詰まらないでしょう?」
「例えに出される鼠が不憫だ」
「ははっ、中々に貴方も辛辣ですね。
話は戻りますが、あの土地の者は、何処の野蛮人なのでしょうか。
同じ人語を理解しているのかも怪しい。
人としての道徳や教養を失っているのかもしれませんね。」
「シェルバン公の頭がイカれているのは、有名だろう。
狂人の統治者に寄る専制支配は、そんなものだ。
こちらが手を下さずとも何れ自壊する。
まぁお前の配下が殺られたのは、不憫だがな」
「不憫、不憫どころの話ではありませんよ。
逃げ帰った者の証言から、下々の民まで、旅人に襲いかかるような有り様。
行商人など通りかかっただけで、誰も彼もが山賊に早変わりだそうで。」
「飢餓か?」
「専横が過ぎて人間としての生活がままならない程なのでしょう。」
「無惨だな。なるべく民草とは関わりにならぬようにせねばならんな」
「まぁ、貴方のその物分りの良い態度が、続くことを祈っておきましょうかね。
祈るのはただですし。
はぁ〜無駄に焼き払う羽目になるのが目に浮かびます。」
「今回の任務は伝令と相手方の様子を見る事だ。
戦闘が主ではない。
それにシェルバンの者が何を言おうとも無駄で無意味。
重要なのは、我々の神がお許しになるか否かだ。」
「ではやはり、盛大に燃えるんでしょうねぇ〜楽しみだ。」
「我々は使者だといったろう?」
「じゃぁ何で小都市を消し炭にできる量の爆発物の申請を?」
「備えるのは常識だ」
「きっと私の知らない真理なんでしょうねぇ〜」
城塞の武器庫には、移動で持ち込んだ物と専任の鍛冶が作り出した特注品等が積まれている。
その管理をしている兵士は、体を損ね引退した者で、イグナシオ達とは古い付き合いだ。
元々、武器の扱いに長けていた男なので、鍛冶師と兵士の間を取り持っている。
軍専任の鍛冶師達は、兵士の相手を嫌がるのだ。
なので結局、直接のやり取りは、管理番の男になった。
その男は、二人を通路の先に認めると、応対用の長机に注文の武器を積み出した。
「準備はできてるよ。
油薬と点火剤は、先に隊の方へと渡しといたぜ。
水中以外なら、土砂降りでも引火する奴を仕込んどいた。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます