第646話 挿話 兵(つわもの)よ、剣を掲げよ盾を押せ 上 ②

 そんな彼らが進む道筋は、城塞からコルテスの街道、シェルバンの森林を横切り、ボフダンへと向かうものだ。

 音信不通とはいえ、コルテス領内に関しては、さほどの抵抗は無いと考える。

 コルテスは内政不干渉としているが、中央軍展開に領主の許可は必要無い。

 コルテスは公王係累であり、公王が命じる派兵に許諾は必要ないというのが理由だ。

 もちろん、本来は公爵の許諾後に領内侵入をするべきだが、その当人からの返答は無い。

 公王係累の安否を確認するのは当然である。

 と、いうお題目が成立するので、どちらにしろ領内侵入に許可も何も無い。

 ここで何某かの抵抗があれば、それはそれで意思表示として記録に残したいのもある。

 そのコルテスへの公式伝令による連絡は、カーザが引き続き行うとしていた。

 が、これはあまり期待できない。

 面倒事を避けたい及び腰の奴らの、演技、見せかけ仕事になるのはわかりきっている。

 適当な伝令を立てて領主街までたどり着いたとしても、面会拒否で終了だ。

 アホらしい話だが、伝令を向かわせたという体裁をつくって終了だろう。


 彼らは現状、謹慎処分中だ。


 どうせ東部貴族から何もするなという御達しを忠実に守っているのだろう。

 守っていれば、許されると思っているのだろうか?

 愛玩犬は必要ない、必要なのは猟犬だ。

 あくまでも愛玩犬でいたいというのなら、さっさと辞職すればいいものを。

 失点がこれ以上重なれば、彼らの首も胴体と別れを告げねばならない。

 そこで心を入れ替えるならまだしも、未だに手抜き仕事を大真面目にしている。

 何を考えているのか、何も考えられないほど無能なのか?


 もちろん、イグナシオ達が、そんな者共の仕事をあてにする事はない。

 三公爵それぞれにサーレルの配下を送り出している。

 先乗りの下見がどうなったかは、まだイグナシオも報告を受けてはいない。

 報告が無いという事は、芳しからざる結果なのだろう。

 それも含めてイグナシオ達がボフダンに向かい、現地民の意思確認をとなる訳だ。

 本来なら外交にて問題を処理するべきだ。

 だが外交対応の機会が、とうの昔に終わっていたらどうだ?

 いつからこの連絡の不備があったのか、カーザ達の手抜かりもある。

 中央だとて、異変を知らぬでは無い。


 ため息もでない。


 と、イグナシオはイライラと考える。

 カーザ一党らの始末はイグナシオ達の仕事ではない。

 さも仕置をしに来た風のサーレルの態度は、単なる嫌がらせだ。

 それを又、真に受けて見事に騙される相手に同情はしないが、イグナシオにしてみればいい迷惑だ。


 そんな話はどうでもいい。

 他者の情けない事情など、斟酌するのは無駄だ。

 己が使命、役割を全うするのが正しい。

 余計な思考は無駄だとイグナシオは考えを切り替える。


 問題は、東マレイラ離反を目論んだのが原因、ではない事だ。

 そんな単純な蜂起による混乱ではない。


 人族種の変異。


 元老院と幕僚部、中央が懸念しているのは、腐土の二の舞いの可能性。

 それとこれが管理された状態なのか否か、だ。


 そして熱心な信徒としては、不浄があるならば焼き尽くさねばならない。

 常に備えねばならない。

 それがの為に備える良き猟犬信徒の姿だからだ。

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