第501話 ドミニコの美しい薔薇 ②

 貧しい亜人の少年は、とある貴族に拾われる。

 子供を亡くしたばかりの奥方の為に、夫が子供の召使いを買い与えたのだ。

 少年は奥方を喜ばせる為に、毎日のように部屋に花を運び、食事の側に侍り、不敬も顧みずに話しかけ続けた。

 彼自身は孤児であり、親も兄弟も無い根無し草だ。

 それを拾い上げてもらった恩に報いようとしての事だった。

 奥方は神経質な性格だったが、少年の気遣いとある意味大雑把で明るい性格に癒やされていく。

 そして奥方が、徐々に回復するとある事に気がついた。

 少年が花を生ければ、それはまるで花の精霊が手を加えたように華やぐ。

 少年が衣装を選べば、夫の男ぶりがいつもよりも上がる。

 執事や侍女よりも、手先が器用である事。

 なによりも給仕などが配置するよりも、食卓が美しくなる。

 そう屋敷も庭も、少年の手がはいると美しくなるのだ。

 そこで奥方はある人物に少年を見てもらうことにした。

 当時有名な画家だ。

 屋敷に招いて、少年が特別ではないかと相談したのだ。


(これはね、奥方がすっかりドミニコ少年を我が子のように思っていたって事。

 つまり親ばか自慢で、当時の流行画家に、うちの子どうかしら?ってみせたわけだ。

 だからその画家も、金持ち貴族の道楽に付き合う気分で、適当に褒めてお茶を濁すつもりだった。)


「もしかして」


(まぁ当時の人物の記憶だね。裏取り終了。ほら、続き続き)


 画家が半信半疑で少年に色々な事を試してみる。

 すると少年は、色彩感覚、造形把握、などに優れていた。

 そして美しいと思われる形を描くことにも長けていた。

 つまり芸術的才能が突出していたのだ。


(亜人の種族の中でも工芸に優れた血を持っている者は少なくないんだ。

 その中でもドミニコ少年は、美的感覚がとんでもない、つまり天才だったって事だ。

 花を飾る、家を飾る、人を飾る。

 使用人として彼は働いていたけれど、すべてが美しいか美しくないかの物差しが当てられていたんだね。)


 彼はその画家の工房へと徒弟に入る事になった。

 貴族夫妻は、彼を後援するとともに、実質の養子の扱いだ。

 彼は徒弟として、様々な芸術方面の技術を学んでいく。

 そして彼が一番の得意としたのは、肖像画と彫刻であった。


(ただし彫刻とは当時は、注文があって初めて着手する物だった。

 画家の持つ工房で請け負う複数人での大事業だ。)


 そこで恩人の貴族夫妻に報いる為に、少年は夫妻の肖像画を請け負った。

 まぁまだまだ修行中の身だったから、彼ら以外の仕事はなかったのもある。

 しかし、これが少年の出世が加速する原因となった。


(またまた、この奥方がうちの子自慢で肖像画を披露したんだ。

 ドミニコ少年もね、奥方が喜べばと、そりゃもう何枚も何枚も、この貴族の奥方やら周辺の人々を描きまくったらしい。)


 当時、珍しい光りの描写を取り入れた集団肖像画なる物を描いて、あっというまに貴族社会での流行となったのだ。

 当時の師匠である画家は少年を独立させて、もう、夫妻後援の工房を作るようにと言い渡す。


(前衛的な芸術手法をドミニコ少年は色々と取り入れていたのもある。

 彼は古い手法を踏襲していたが、今の王国で言う前衛芸術に近い表現と手法を編み出していたんだ。

 だから彼の師匠は、彼を独立さねば危険と判断したんだ。)

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