第623話 目覚めし者は優雅に嘲笑す ⑦

 マレイラの空は曇りばかりです。


「あぁ、東の冬は湿気って寒々しいな」


 南部の、旦那の故郷は、空が広くて青いのでしょう?


「雨季があるから、荒れる時期は凄いぞ。

 まぁ青空見るなら、ジュミテック砦からが絶景だな。

 広大な熱砂に青空。

 砂塵の嵐にお目にかかれる。

 嵐の前は、紫電が乾燥した空に奔った後に、降るように砂の地を暴れまわるんだ。」


 人間がちっぽけに感じる景色でしょうね。


「お前のところの、冬の景色も同じだろう」


 砂漠って、どんな風なんですか?


「夢も希望もねぇよ。

 それこそ人間が生き抜く為に知恵を絞らねぇといけねぇ場所だ。

 まぁ俺がいたのは、その最たる場所、砦近くの砂漠側だったのもあるか。

 水場の街は、それなりに楽しいかもな。」


 砂漠、砦、王国の国境沿いですよね。


「よく知ってるな。それもグリモアとやらが教えるのか?」


 さぁ、何となく、分かる感じです。


「砂漠の砦は独特だ。

 人族は殆ど駐留できない。

 当然、お前の場合、徒歩での砂漠越えは無理だ。」


 どうしてです?


「地元の人間しか適応できない。

 毒虫に風土病、高温に重金属の嵐、大気中にも毒が微量に含まれている。

 場所によっては磁場異常で動けなくなる。

 自分の重さ以上の荷重が体にかかるんで、人族や亜人種は内臓がやられちまうんだ。」


 南部全体ではないですよね。


「俺の領地は環境改変装置がある。金食い虫の古代技術だが、こればっかりは何があっても死守してる。

 ここを攻撃されたら終いだからな。

 獣人以外の人間が死んじまうし、そうそうなおせる物でもない。

 で、砂漠の砦は、そういう意味では一見の価値があるかもな。」


 うん?


「西の砂漠には幾つもの水場と街がある。

 歴史深い遺跡もある。

 金持ちの道楽で物見遊山をして回る者がいないでもない。

 そうした空路飛空石を利用した低空航路便は、王国軍の拠点を経由しているし、比較的、安全に行き来できる。

 下を行くよりもな。

 流通を確保する為にも、領地間で調整もされている。

 砂漠に突進せずに、磁場異常を避けての旅なら可能か。

 商売や見て回る程度なら、案内人次第だろう。」


 あぁ、私でも行けるということですね。


「そうだ。

 北の人間が見たこともない砂漠も嵐も、巨大な砂蟲も見れるだろう。

 それに砦の兵士も見る分には面白かろう。」


 兵士、違うのですか?


「環境が苛烈過ぎて駐留地に獣人以外の種がいない。

 加工しようが改造しようが、無理だ。

 その獣人だったとしても、ピンキリ、誰もが頑健無敵を誇っちゃいない。

 オービスやスヴェンのような男だったら、どうにでもなるだろうがな。

 だが、お前の友達になったバーレイの孫のように、殆ど人族のような者もいるわけだ」


 ビミンですね。

 確かに、旦那のお仲間と同じ種族とは思えませんね。


「馬鹿二人に言っておく。」


 悪口じゃないですよ。


「大丈夫だ。

 女子供の言動に怒る馬鹿どもじゃねぇし、むしろ笑うさ。

 で、最南端の砦には、現地民の部族を雇う。

 そいつらは独特の文化をもっていてな、空気もまっとうに吸えないような場所で、半裸で過ごしているんだ。」


 裸..。


「まぁ正確には、砂漠仕様の軍服だな。

 長衣と頭衣、面紗で布装備なんだ。

 甲冑や具足と言っても東の者からすれば、軽装でほぼ体を守っていない。

 皮膚に毒虫除けの薬を塗ると戦化粧のようになってな。

 こっちの人間からすると、野蛮人にしかみえない。

 灼熱の地獄のように焼けた砂地で活動するんだ、こっちの甲冑なんて肉を焼く鉄板になっちまうのにな。

 まぁそんな感じで、こっちから物見遊山で見て回るのは、案外楽しいかもしれん」

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