第286話 極光 ③

(まぁ食い尽くしたしね。

 長命種と約定の子孫の殆どだ。

 おまけに最後に喰らったのは、直流のイエレミアスだ。

 彼に長命種の臓器がないといっても血筋は同じだ。

 美味しくないどころか毒物だ。

 そう長命種の中でも使徒の家系は、美味しくないんだよ。

 因みに僕も、その使徒の家系なんだ。

 つまりモーデンゆかりの血統ってわけ。

 君たちはごちそうだけれど、僕達は食べたくもないごみなのさ。

 あぁ、気を失いそうだね。

 じゃぁ教えたいお話だけにしようか。

 さて、どうして彼らは死しても足掻いたのだと思う?)


 エリだ。


 術が阻害されて生き腐れた。

 傍から見れば、恨み辛みで彷徨さまよっている。

 呪術が不完全で死にぞこなっているように見えた。

 けれど目的はあった。

 嫡子も形代として残り、死んだ者は呪術の輪に入り踊り続けた。

 それは生き残ったエリの為だ。

 彼らの生活を支え、神に祈り続けた子供への償いだ。

 彼らはどうなった?

 消えてしまったのか?

 それとも未だに苦しんでいるのか?


(彼らは神と一緒にいる。

 彼らの神と楽しく踊っているだろう。

 心配はいらない。

 君が思うよりも、苦しみの無い場所にたどり着いている)


 そうか、なら、いいのかな?


(彼らも満足したはずだ。願いは叶い、皆、一緒だ)


 疲れた。ちょっと寝た、い。


(そうだね、まだ、街が燃えているから寒くないよ)


 嫌な冗談だ。

 少し寝たら、エリを探さなきゃ。

 きっと無事なはずだ。

 だってもう、エリは生贄じゃないんだから。

 見上げる空は、美しい色でいっぱいだ。

 極光は、優しい風にほのかに揺れている。

 きれいだなぁ、ほんと、に。


(おやすみ)


 ***



(さぁお姫様は眠ったよ。

 彼女も少し学べたかな?

 簡単に死のうとするのは、愚かだって。

 痛くても苦しくても、明日を見つめて生きていく。

 自分から命を手放してはいけないって。

 もちろん、最後は手放す事になるけれどね。

 ふふっ、独り言みたいだね。

 さて、シュランゲの呪術師と踊り手達よ。

 お前たちは罪深さなら、あの女よりも上だね。

 少しは、満足したかい?

 憎しみは薄れたかな?

 お前たち自身の欲を手放せたかな?

 まぁ良いさ。

 さてお前たちは約束通り、そこな蛇神とひとつとなった。

 喰らう物をよく選び、我らが供物の願いを叶えるのだ。

 我らが眠りに落ちた、ひとりぼっちのお姫様のね。

 本来ならば消し飛び何も残せないところを、お姫様が願ったからね。

 も、楽しい死後の道を歩めるだろうさ。

 でも、お前たち罪人の許しを願ったお姫様は、相変わらず困ったことになっている。

 このままだと僕達のお姫様は、体が冷え切ってしまうだろう。

 そこで少し、君たちも役立ってもらおうか。

 お姫様は大人ではないからね。

 君たちが手伝っても良いと思うんだ。

 だって、になったんだから。

 貪欲で食い意地のはった、子供の守護者さ。

 これも神の形をつくった、お前たちの所為で生まれた。

 その罪の重さはわかっているだろう?伏して詫ても遅いがな。


 じゃぁ祈ろうか。

 お姫様は死体と瓦礫に挟まれて、誰にも気がついてもらえない。

 君たちや子供を思って、一人悩んで困っていたのにね。

 慈悲を齎す供物の女。

 彼女も因果の果に気がつけるかな。

 さぁ、皆、踊り呪え。

 極光とともに、ね。ふふっ)

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