第417話 木の葉の船 ⑨
仕立て屋での注文を終え、再び馬車に乗る。
ニルダヌスは小さな幌をあげた馬車に私を乗せると、ゆっくりと町を進む。
どうせならと彼の隣に座る。
毛織物でぐるぐる巻の状態でだ。
どちらかというと暑く感じたが、馬車が動き出すとちょうど良くなった。
町の案内も兼ねているので、ゆっくりとした速度で進む。
ミルドレッドは小さな町だが、その辺の田舎の村とは違って大凡の町にあるだろう店が揃っていた。
そしてどの店も、非番の兵士で溢れている。
城の常駐兵の家族もいるのだろう、町の住人以上に沢山の人が行き来していた。
ニルダヌスは一通り案内すると、城からの道、軍馬の通りに近い家へと向かった。
落ち着いた煉瓦造りの家は、冬場でも青々とした葉が茂る植物を窓辺の鉢に植えている。
「目的地の診療所だよ。
ここの医師は王都からの巡回医だ。
城塞の兵士と同じく、王都の医師会から送られて、数年ごとに入れ替わる。
だから、治療技術は辺境地より進んでいるし身元も確かだ。
評判も悪くないから安心しなさい。」
小さな待合室には、二つの長椅子が置かれていた。
一方には忘れ物なのか、草臥れた人形が放置されている。
奥の部屋へと続く廊下は薄暗い。
匂いは薬草と、何か湿気った感じの奇妙な、嗅ぎなれないものだ。
ニルダヌスは勝手に奥へと入っていく。
暫くすると彼は女性を伴い戻ってきた。
看護師の女性だ。
彼女は私を奥へと促した。
奥の部屋、診察室は全体的に薄暗かった。
(確かに、王都の医者だね。
この中央王国での民間の医療は、基本的には外科的な医療は行われていない。
地方では未だに瀉血などという蛮行もまかり通っているしね。
医療技術は王が独占している技術だし、次に高度な医療を行えるのが軍だ。
民間は、まだまだそこまでの技術の進歩を認められていない。
民間の医者といえば薬師、薬湯医の事だしね。
そして地方医療の改革をしているのが神殿医だ。
まだまだ彼らも初歩的な外科治療しか技術を得ていない。
公王は改革を望んでいるが、命の館の技術は先鋭過ぎて開放できないからね。
ちなみに公王などの人を作り出す技術を行うのが命の館とよばれる集団だ。
これが王国医師の上にいる。
そしてこの王都からの医師ってのは、その王国医師の下部組織、民間の医者の事だね。
君の衰弱具合を視るだけなら十分さ。)
問うべきか悩む。
と、先回りして答えが返る。
(そうだよ。
僕の肩書には、いちおう王国医師ってのもあるんだ。
僕が診断してもいいけど、過労と単なる衰弱だよ。
ご飯を食べて、虫下しを飲んで、あとは日向ぼっこでもしてればいいのさ。
ほら、僕が言うと真実味がないからね。
生きている医者に聞いたほうがいいよ。
はぁ、僕ってさぁ〜生きていたら、多才で天才の誉を与えられていただろうね。
まぁそれはそれで妬まれて、早死したかも知れないね。
元々、僕は妙に知恵の回る子供だったしね〜。
だから、一番最初に始末されたんだよね。
まぁ始末した奴らは、苦しんで苦しんで死ぬようにしたけど。
死んでからも、ちょっと遊ばせてもらったし。
まぁ人生はままならないものさ。
えっ、僕が言うんじゃない?
うるさいなぁオジサンは、黙っててよ。)
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