第156話 噂 ②
慣れると、その地方ごとの粥の味がわかるそうだ。
わからなくて良い気がする。
薄い茶をガブガブと流し込む。
商人が言ったように、味は別にして体は温まるし、腹に収まると落ち着く。
口の中がえぐいような気がするだけで、吐き気もない。
塩は買ったほうがいいだろうか?
そんな私を見て、エリが少し口角をあげる。
どうやら面白かったようだ。なによりだ。
男達が粥を摂らずに外に出たのも理由があったのだなぁ。そんな事を考えて火の側に移る。
外の様子から、天気は薄曇りのようだ。
まわりの客たちも、少し天気の様子を見てから出立するようだ。寒気の流れによっては、予定地の変更も考えねばならないらしい。
朝の開門にはまだ時間があった。
外は薄暗く寒さで窓が凍りついている。
客の多くが、茶を飲み暖炉の周りで雑談に興じていた。
穏やかだ。
何もかもが夢のように感じる。
カーンが言っていた、生きている今が夢のようだという気持ち。
寂寥だけではない。
闇を見据えるような絶望でもない。
安楽な楽しさでもない。
どこかすべてが不思議に思える。
寂しくて、物珍しくて、すべてが悲しみを含んで。
気持ちを入れ替えよう。
男達が戻るまで、宿で待機だ。
エリの預け先も聞いてくるとの話だ。
昨晩の内に、姿のなかったモルダレオが問い合わせを役場にしていたそうだ。
モルダレオ、ここまであまり話したことは無い。
口髭に長い髪を編んでいる。
物静かで怖そうだ。
いや全員怖いが、慣れてわからなくなっている。
それはいいとして、夜に簡単な問い合わせを残したので、その返答を聞いて戻るそうだ。
そうしたらエリはそこへ送る。
彼らの一人が付き添ってだ。
私もそれに従い、落ち着くのを見届けたら消える。
私は消える。
なぜか、楽しく良い事だと思った。
人としての悩みの多くがなくなってしまった。
じゃぁ何が心残り?
ふっと思い浮かんだのは、私の親って誰だろう?という子供の頃にずっと考えてきた疑問だ。
諦めてしまい込んでいた疑問だ。
今更である、これは考えても答えなぞ無いのだ。
「青馬?」
そんなぼやけた私の頭に、奇妙な言葉が入り込んだ。
「勘弁してくれよ、青馬だって」
「あぁ、そっちの道は使わないほうが無難だってよ」
「冬に青馬か」
「嫌だねぇ、もう死人はでたのかい?」
何やら、不穏な話のようだ。
食堂の暖炉側に二人でいたが、菓子と茶をもらうと窓際に移った。
情報や噂話は仕入れるに越したことはないが、子供が聞いていい話とは限らない。
ただ、エリは興味をもったようで、青馬の話を続けている一団をじっと見ている。
焼き締めた菓子を渡し、お茶を飲むようにすすめる。
粥ぐらいでは、栄養がまだまだエリにはたりない。
この焼いた物なら、消化も良さそうだ。
だが、青馬の話題が気になるのか、菓子にも口をつけない。
「エリは青馬の昔話を知っているかい?」
どうやら聞いたことがないようだ。
仕方がない。噂話ではない、昔話をするか。
「じゃぁカーン達が来るまで、少し昔話をしようか。
昔々の青馬のお話だ。」
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