第740話 俺は変わったか? ⑬
「亀裂の無い壁際に下がれ、くそったれが燃やす」
(駄目です。
私が間抜けにも、油断したせいです)
「苦しいんだな、すまねぇ。すぐにでも」
(大丈夫、油断して転んだ程度の話。
それよりも鎮めなければなりません。)
「いいんだ、もう、証明した。
すまなかったな、謝っても手遅れだけどよ。
もういいんだ、あぁ迷惑かけちまったな。
俺の手抜かりだ。
悪かった、俺が悪かった。医者に行くぞ、部屋ごと燃やしちまえばいいんだからよ」
(駄目です、大切なモノのはずです。
すくなくともこれが原因のひとつでしょう)
「気にするな、全部、そうだな..無かったことにしちまえばいいんだからよぉ」
「待てカーン!貴重な手がかりだ」
「..命拾いしたな、塵が」
カーンは背を向けていた。
元凶を目の端に二人には背を向け、私を抱えて箱から庇うようにしていた。
だから、彼の表情は私だけが見ていた。
その表情は一瞬にして無になった。
無になり目の奥によぎるのは、失望だ。
いけない。
と、私は思った。
何故か、そう思った。
そしてその気持が相手に伝わるのもわかった。
フッと表情を一瞬だけゆるめ、それから怒りを面に出した。
怒り、見せかけの、嘘。
私への謝罪。
それは、とても苦しい事。
「うるせぇんだよ、役立たずのクソどもが。
こいつはな、俺の預かりものなんだよ」
ゆっくりと振り返る。
異変は続いていた。
だが、それよりも彼の中の失望と怒り、やるせない気持ちが気になった。
「毎度毎度なぁ血かゲロを吐くような目に合わせてるんじゃぁ俺の面子が丸つぶれなんだよ。
わかってるかぁおらっ!」
足元にあった木の椅子を蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされた椅子を避けようと、バットが鉄の箱から退いた。
彼は今だに中身を弄ろうと手を伸ばしていたのだ。
「文句あるか、役立たず共が。
もともとテメェ等が満足に役目を果たせねぇから、俺がぁ呼ばれたんだろうが。
俺に命令できる身分に、いつからお前らはぁなったんだぁ、あぁおい
南部南領の俗語混じりの罵倒が続く。
背を擦られながら伝わるのは、平坦な、とても静かな感情だ。
地元の言葉だと巻き舌になるのだなぁと暢気な事が浮かぶほど、カーンは冷静だった。
(この呪いを少し整えたいと思います)
「いつでも燃やす、それでいいな」
カーンの言葉に、バットは両手を上げて、カーザはため息をついた。
『見えているのに、見えていない。へぇ〜あぁそうか。彼らは..』
どういう意味だ?
『オルタスの神々ってのはねぇ、君も知っている通り、公平とか平等は気にもしないけど、取り引き、商いに関しては厳しいのさ。
それも命の商いついてはね。
買い物をしたらお代を払う。
借金をしたら返済する。
公正な取り引きを求められるのさ。
罪と罰を秤にかける蛇が神の象徴だった事もあるしね。
宮にもいるしねぇ〜あぁこれ、僕達の便利な豆知識だよ。
君にだけ教えちゃうぞ!
神聖教では偶像崇拝はしないけど、オルタスは蛇神様の文化なんだよねぇ』
何の話だ?関係ない事を
『ふふっまぁ君には関係の無い話さ』
「カーン、焼き潰すのは最後の手段にしてくれ!」
「オリヴィア、俺が無理だと判断したら、見捨てて下がるぞ」
『こいつら、まだ、最後があると思ってるんだね。
道化が言う通り、本当に冗談が面白すぎるよぅ』
(えっ何?)
「誰も彼も助けねぇでいいって言ったんだよ。ヤバくなったら逃げるからな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます