第509話 湿地にて ⑥

 声をかけてくれた彼女は、やはり大型獣人らしく背が高い。

 きりりとつり上がった瞳は、鮮やかな新緑の色できれいだ。

 オルトバルは一見兵士に見えぬ美女だった。

 こちらは見るからに勝ち気な雰囲気で凛々しい。

 オルトバルを引き合いに出したが、この女性兵も、物怖じせぬ態度と話しかけやすい雰囲気が似ていた。

 野営の準備が終わり食事になると、隣に来て世話をやいてくれている。

 カーンが頼んだのかも知れない。


「おい、ミア。

 あんまり巫女さんに構いすぎるなよ。困ってるぞ」

「うっさいね、トリッシュ。

 アンタみたいなのがいなけりゃ、安心なんだよ。ド屑野郎が」

「ひでぇ、扱いがひでぇ。俺たちだってお話したいのにぃ」

「気持ち悪いよ、黙んな」


 トリッシュと呼ばれた男は、黒髪黒目、獣人には珍しくタレ目の優しい顔をしていた。


「巫女さま、あの屑には近寄っちゃだめですよ。面だけは真っ当に見えますが、中身が屑ですからね」

「異議あり、異議あり!」


 するとトリッシュの隣で食事をしていた男が笑った。

 白い髪の男だ。

 こちらは白髪だが地毛の色らしく若い獣人で、見るからに荒んだ雰囲気をしていた。

 細い目に眦がつり上がっており、右頬に入れ墨が入っている。

 筋肉質ですらっと背が高い。

 膝を立てて座っていたが、顔をそむけて笑っている。


「ついでに、この屑の隣で笑っている奴はキチガイなんで、もっと駄目ですよ」


 その物言いにも怒らずに、男は笑ったまま言葉を返した。


「ミア、じゃぁここに、マトモな奴はいないぜ」

「そこの三人は特に頭がオカシイですから、近寄っちゃ駄目ですよ」

「俺もかよ、つーか飛び火したぞ、おい」


 一緒に座っていた男が怒鳴る。

 吹き散らかされた金髪で、南部人の浅黒い肌とは対象的に、サーレルと同じ白い肌をした男だ。


「そりゃ納得だ。ユベルは変態野郎だからな。俺も気をつけよう」

「語弊、語弊、ぶっ殺すぞ、ザム!」

「そうだな、お前、変態だもんな」

「同意すんなや、お前ら!」


 周りの男達が同意して、女性兵士達が頷く。

 ミアを見上げ、冗談の確認。


「お耳汚しですからね、具体的な話はしません。

 けど、禿鷹傭兵あがりの男ばっかりですからね。

 育ちも悪いし中身は、そりゃもう肥溜めみたいな奴らでね。

 その中でも、そいつは口先がうまい。

 もちろん、巫女さまに変なことするようなら、処分しますんで大丈夫ですよ」


「巫女さん、違いますよぉ。俺は変態じゃぁねぇ」

「弁解が大変そうだな、ユベル」


 カーンが戻った。

 全員が起立し礼をとる。

 座っているのは私だけだ。

 そんな私を抱えあげると、カーンは自分の膝に乗せた。


「食い終わったら薬だ。ミア、白湯を用意してくれ」

「了解です」

「足の骨がやっとくっついた所だ。冷えないように気をつけてやってくれ。」

「了解。気が付かず申し訳ありませんでした。団長」

「強情っぱりな奴だからな、自分からは絶対に痛いと言わない。頼んだぞ」

「お前らも聞いたな?団長が離れた時は、巫女様のご様子もよくよく注意をはらえ」

「いえ、大丈夫です。旦那」

「訓練だ、訓練。護衛のな」

「ふりだけで十分ですよ。」

「ちゃんとお世話をさせてもらいますよ。

 訓練じゃなくても、巫女さまのお世話ができるなんて最高です!」

「あの、私は」

「お前ら、焼かれねぇように、ちゃんと仕事をしろよ」

「焼かれ、る?」


 それに、了解と唱和で、皆、食事に戻る。

 困るのだがとカーンを見上げた。

 それに食事を受け取る男は、面白そうに眉を片方あげて見せる。


「イグナシオが不在でよかったよな、お前ら」


 それにも皆、同意の笑いを漏らした。

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