第393話 沈没船 ②

 その理由は、獣人の血筋に短命人族の血が微かに混じっているからだ。

 彼女の外見が年相応に老いているのは、その一割未満の短命種人族の血の影響である。

 つまり一般の人が彼女を見ると短命人族種だろうと思う。

 まず、彼女の身長や指の数、顔形が人族のそれだ。

 ここで亜人種であろうという予測は外される。

 ならば人族とすれば、長命種の加齢現象は、死期が近づく最高齢の頃だ。

 特殊例では、老いること無く死期を迎える者さえいた。

 これは獣人種でもいえる。

 この為、寿命と加齢現象は多岐に渡り、年齢と老いの基準は短命人族種を基本としている。(個体差が少なく平均値が出しやすい事が理由)

 と、そこまで深く考えずとも、一般的な人族女性だろうと多くの人が思う。

 まぁそれで不都合は無いのだ。

 拘るのは余程の差別主義者であり、気にすべきは種族より身分である。

 階級こそが、中央では大きな価値観であり差別区別の元だ。

 ただ、種族と階級は等しいので、その差別観は分けたところで無駄だ。

 そして階級社会によって秩序が保たれており、平等や人権尊重、武力闘争の放棄をうたっても、それに見合う文化文明社会には到達できていない。暴力が罷り通るのがオルタスなのだ。

 長命種族は支配階級が多く、その他は庶民、兵士に獣人が多いというのも事実。

 まぁそれもこの国の成り立ち故だ。

 話が又、それてしまったが、外見でオルタスの人種を見分けるのは困難だ。

 両親が同種族でも、種族固定に先祖の何が影響をあたえるかは未だに未知の部分がある。

 ただし、これは安心材料にならない。

 精霊種の種族固定は混合体と同じく特殊だそうだ。

 つまり本物の精霊種を見た者なら見抜ける。

 おまけに私の姿は精霊種の子、そのものらしい。

 それでもまだ、特殊な種族成長の為にごまかせている。

 精霊種は幼年期が長く、成人するまでは養育者の姿に似ると言う。

 私の場合、村人の殆どが小柄な亜人種であり、長命種の領主よりも拾った爺達に似たのだろう。

 子供の内ならば、亜人と誤魔化していられるだろう。

 それでも耳や顔貌、全体的な姿は精霊種という者を知っていれば、亜人の種とは違うとわかるそうだ。

 まぁ又、付け加えるがボルネフェルト曰く、獣人とは違う耳の形に指の数が亜人よりも多く、人族と同じだからというのもある。

 つまり、分かる者、探している者には一目瞭然。

 アイヒベルガー侯爵が私を森の人と呼んだのがそれだ。

 滅び去った精霊種を忘れるには、まだまだ年月がたりない。

 同じ種族を探すのならば良いことなのだろうが、身を潜めるには厄介だ。

 このような話をしてくれたクリシィだが、母親は第一夫人であった。

 東領では名のしれた貴族の娘であったが、寿命の違いは如何ともし難く。それでも才気あふれる女性だったそうだ。

 その夫である当主は、中央詰めの官吏であった。

 母親を王都に呼び寄せて暮らした後、没すると同時に娘のクリシィは相続争いを避けて神殿へ入る。

 第二第三夫人が長命氏族出であったための、東での政争が元である。

 ちなみにクリシィは、東三公のコルテス公爵の寄り子であったが、直接の繋がりは無いそうだ。

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