第742話 俺は変わったか? ⑮

 酷い目にあった。

 あいも変わらず禍々しいが、触れる者を狂気に落とす毒は見えない。

 垂れ流す事を止めてくれたようだ。

 ただ、触れる事はできない。

 というか触りたくない。

 無理。


「こいつは何なんだ?」

(素手は止めてください)


 と、言ったのに、カーンが様子を見ながら手を伸ばす。


「平気だ。臭えなぁ、何だ汚物みたいなニオイだぞ?」

「シェルバンの関から発見された物ですよ」

「お前、本当に馬鹿だよな」


 バットの説明に、カーンは中身を探りながらポツリと言った。

 それに言いかけていた言葉が続かなかったようで、彼は口を開いたまま動きを止めた。


 言い争い。

 何が証明されたんだろう。

 嫌だな。

 私が原因だったら嫌だな。


『気にしなくていいよ。

 彼らは色々、自分たちに都合の悪い事は忘れちゃうって話だよ。

 つまりね、この泣き虫を掘り起こしたのは、道化の仲間だ。

 説明する必要は欠片もないし、どういう代物かも知らない筈はないんだよ。

 今回の因縁言い掛かりもさぁ、基本的に無意味なわけよ。

 呆れて呆れて虚しくなっちゃう話なのさ。

 そしてね、君が心配するのも見当違いって事。

 わかるかな?

 君を酷い目にあわせたのは、この道化が原因なんだよ』


 よく、わからない。

 それでもカーンは、こんな結果になるとは思っていなかったんじゃない?

 私が目を回すなんて。


『わかっていたよ。』


 そう、なの?


『よくないモノだと知っていた。

 だから、君に謝った。

 君に開けなくてもいいんだよ。と、言ったのも本心だ。

 けれど、止めなかった。

 知りたかったし、愚かさを確かめたかった。』


 確かめる?


『君を試した訳じゃない。

 道化は、確認したかった。

 自分の目でね。

 けど、間違いだった。

 君を天秤刑罰の物差しにしてはならない。

 例え救いを求めたとしてもだ。

 それは身内に対する道化の甘さだ。

 おかげで罪が重くなった。

 それを理解できるからこそ、この男は君に謝罪したんだ。

 裁定はとっくに出ていたんだ。

 でも、これは君には関係の無い話だ。

 君は被害者なんだ。

 だから、盛大にこの道化から詫びを受け取ったほうがいいのさ。

 そうだねぇ、何がいいかなぁ』


 止めてくれ。

 何か不穏な事を考えたな?

 忠告のふりをして、余計な事をするのは止め..。

 身内..もしかして


『ほら、勘違いした。

 大丈夫だよ。

 この男の親族じゃぁ無い。

 獣人種の説明をするまでもなく系統が、この二人とは違うのがわかるだろう?

 それよりも泣き虫の知識を教えておこうかな』


 雑談に紛れて知識の開示を受ける。


「凝った作りだ。

 革の装丁に文字みたいな紋様がある。

 金属の留めに鍵穴か。」

「鍵を発見し、本と揃えて神殿へ送り返せとの話です。気分はどうだ?」


 バットの問いかけに私は頭を振った。

 彼の表情を見る。

 少し眉が下がり、困ったような顔をしていた。

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