第743話 俺は変わったか? ⑯
『違うよ。
この男は、呪われてもいないし、僕たちが何かした訳でもない。
君に説明するの、難しいんだよね〜。
複雑なんじゃなくてね、君や道化は人間として同じ部分をもっている。
魂の作りが似ている。
生き物として同じ種類だ。
だから僕達も、君や道化に同じわかりやすい共通認識を与える事ができる。
あぁごめん、もっとわかりやすい言い方ね。
オルタスは多人種多言語の人間が生きている。
基礎となる人間の質がもともとかけ離れているから、共通認識や理解に齟齬がでやすいんだ。
君の当たり前が、この二人には通じないって話。
文化的にも人種的にもね、成長段階で与えられた教育も原因かなぁ〜。』
少しもわかりやすくないのだが。
『ふへぇ〜ええっとぉ。
ついねぇ生徒に教えるつもりになってたよぅ。
髭面の生徒ばっかりだったんだぁ。
えぇっとね。
君の考え方は、彼らには通じないんだよ。
思うよりずっと、話が通じていないんだよ。
わかる?
君に与えた苦痛も、彼らの倫理には反していないんだ。
それは同じ郷土出身で分かり合える部分もある筈の道化にしても、理解不可能の考え方だ。
彼ら南部領東の貴族ってのは、もう、どうしようもないほど特殊なんだよ。
道化自身が思うよりも中央の文化、つまり君の北西文化圏に近い考え方ができるからこそ、君と話題が合うし齟齬が少ないんだ。』
ひとつ、私でもわかる事がある。
お前達は隠していて、私を煙に巻こうとしているって事だ。
無駄話が長い時、お前達は絶対に真実を言わない。
私も学習した。
『ふふっ..いずれ答え合わせができるかもしれない。
けれど、君は知る必要がないからね。
そう、彼ら二人と君たちは、とても対照的だ。
対象的であるのに、関係性が似ているから、僕たちも考えてしまうんだ。
これこそが、宮の主が欲した答えではないかとね』
似ている..答え?
『似ていないが状況が似ているって事。
少しさわりだけ話そうか..君の言う通り無駄話さ
時間は気にしなくていい。
この長考は、周りには気取られないからね。
僕達のお話は、彼らには瞬き一つしか過ぎていないのさ。
うん..君はさ、結構、頑固だよね。
頑固でさ、働き者で勤勉。
正しく生きていく事を大切に考えている。
人としての正しさだね。
他者を裁かず己を律する考え方かな。
まったく子供らしくも女の子らしくもない真面目さだね。
まぁらしさなんて、馬鹿らしい事だし気にしなくてもいいんだけどさ。
そして狩人の年寄りに育てられただけあってさ、人生とは苦難ありきである。
なんて年寄りじみた考えを持ってる。
大いに結構。
神殿の巫女なら、大変良くできました!だ。
けれど大方の人間は、楽な方へと流れるんだよね。
楽ちんで変わらない事を選ぶんだ。
はたから見ると苦難だらけの道でもさ。
当人からすると、それが楽だったりするんだよね。
家畜小屋の家畜のように、命令されるままに動いていれば、褒められてお金も稼げる。
大いに結構。
何も考えなくてすむからね。
何も考えないってのは、楽ちんなのさ。
親から命じられるままに生きる。
教師が言うままに答える。
上位貴族の寄り子になって従順に生きる。
大いに結構。
常に強者に従うのは、弱者の特権だ。
従っていれば、守ってもらえるし利益も享受できる。
これがねぇはたから見ると、真面目で勤勉だったりするんだ。
けれどこれは、その命令する者の頭が正常ならばっていう注意書きがあるんだ。
頭の螺子が外れたヤツのとんでもない指示がでたら大変だ。
隣の奴を殴り殺せとか言われてもね。
そういう無茶は結構だっ!だよね。
..けれど、楽ちんってのは止められないんだ。
考えなければ、ずっとずっと楽ちんでいられるからね。
誰が死のうと誰が不利益を被ろうと、自分だけは守られる。
本当に従うべきは何か?なんて考えなければいいだけなんだ。』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます