第704話 帰路にて 結

「普通の世代交代じゃぁなかった。

 その中で、お前の種族も色々あった。

 訳知りの者達は何も語らないって話だ。

 俺のガキの頃の話だ。

 お前の歳は知らんが、お前自身、直接関係があるかどうかなんて、証明できる話じゃない。

 他人が何やかんや言ったとしてもだ。

 過去は過去の人間、その時に生きて考えた人間が始末をつける話であって、その子孫や関係のないガキが手出し口出しする必要はない。

 ただ、その過去ってやつに注意しないと、足元を救われる場合もある。

 人間は、昔も今もあんまり変わらねぇって話だ。

 お前には無関係でも、昔の生き残りがいる。

 この眼の前にいる公爵がその証明だ。

 俺やお前と歳が変わらないような面した爺様だ。

 そんな奴がごろごろいる。

 そして今この爺様が喋ったように、真実のような嘘を話して聞かせたり、嘘のような真実を言ったりする。

 どれも信じるに値しない話だが、疑って聞いてりゃぁ、欠片でも何かがある事はわかる。

 特に長生きな奴らの話は、嘘だらけだって事だ。

 それは神に使える奴らにも言える。

 信じられるのは、お前が信じたい話になる。

 つまり本当か正しいかの判断は、お前が考えなきゃならねぇ。

 で、爺様の話はだ。

 くどくど面倒くせぇ事を言っちゃいるが。

 お前は自分を大切に、一番に自分の事だけ考えろって話だ。

 そしてな、大まかには、この爺様の話は本当って事だ。

 時間の流れや人名は違うがな。」


 本当、なのか。


「疑えよ。これも俺の話す俺の考えだ。

 証明なんざできねぇ誰かの話だ。

 少し覚えておけば良い。

 まぁこの話は終わりだ。

 それよりも今日、抜けてきた土手にあった、アレの心当りはあるんだな?」


「呪詛祈願の儀式の事ですか?」


「呪詛ね、アレをやる輩が貴殿の領地にいるって事か?」


「腹立たしい話ですが、私がうたた寝をしている間に入り込んだのでしょう。

 戻れば、はっきりするでしょう。

 城塞について、まずは不在の詫びを義兄に報告せねばなりませんしね。

 まぁ今から楽しみで心が踊りますよ。」


 何が楽しみなのだろうか。

 とても不穏な話に聞こえる。

 もそもそと外套の下から出ていったテトが、それに合いの手をあげた。

 にゃぁという間抜けな鳴き声。

 その後、夜露に濡れた姿で、再び焚き火の側へと戻って来る。

 うねりくねる、お土産付きだ。


「おい、クソ猫。

 それを咥えたまま潜り込んできたら蹴り飛ばすぞ」


「おぉ大物の地潜りですね。

 寄生虫がいるので、あまり食料としてはおすすめしません。

 内臓は捨てたほうがいいでしょう」


「いや、そうじゃねぇ。

 オリヴィアへの土産はいらねぇし、そんなもの喰わせても元気にはならねぇから」

 

 うん、まぁありがとう、うん。

 苦いの?

 薬?

 あぁ

 元気が出るんだ。

 うん、それはいいかなぁ。

 薬はお医者さんからもらってるしね。

 ちょっと遊ぶ?

 逃がしてあげなよ。

 美味しくないんでしょ?

 うん、この辺りだと野兎と鴨が美味しいの?

 今度、獲ってくる?

 ありがとう。

 食べないなら、ぽいっとして、ほら。


 びちびちとうねっていた蛇は、藪の中へと飛んでいった。

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