木の葉の章
第311話 闇の調べ
ぽつりぽつりと甘い調べが聴こえる。
美しく懐かしく、泣きたくなるような音色。
それは遠く、遠すぎて確かに掴み取る事ができない。
私は暗闇に一人だ。
あいも変わらず一人。
勇気がないからひとりぼっちだ。
幸せになりたくても意気地なしだから、待っているだけ。
そんな私には闇がお似合いだ。
卑屈だな。
だから寂しいのかな?
そうだね、寂しいね。
誰にも言ったことのない本音。
でも、それ以上は言葉にして認めない。
一人ぼっちの暗闇の中でさえ、本音はいえない。
怖いから。
すると闇の中に、紫色の光りが奔る。
誰かが来る?
私は膝を抱えたまま、その紫色の呪術方陣をみつめた。
綺麗な紋様だ。
(本当の意味での呪術理論の再現構築には、才能が必要だ。
呪術は汎用的であり、オルタスの人種ならば普通に扱える技術であるという前提を踏まえてだ。
誰でも扱えるが、才能が必要。
どのような者が向いているのか?
学者や芸術家、音楽家かな。
言語学者でもいいね。
それに生物や自然に通じている者でもいい。
そして最低条件が、審美眼または音感が優れていることか。
過去、呪術を取り扱う者が権力層に偏っていたのは、これも理由だ。
一流になるには、美を追求できなければならない。
美しい言葉の配列。
美しく機能を追求した形。
美しくそして調和のとれた力を流す構造。
調和と洗練、美しさを極限まで追求できる審美眼だ。
なによりも、美しいと感じる心が必要なんだよ。
だから、いくら呪術文字を学び、技術を習得しても結果はでない。
いや、結果はでるが、美には至らない。
物真似はできても、それは呪術にはならない。
神を宿す事も、この世を動かすほどの奇跡は望めない。
そしてこの調和を求める事で、例え不相応な力を得たとしても、彼らは人に留まる事ができた。
調和とは中庸であり、自然を人を傷つける事ではない。
だから、君は大丈夫だよ。
君は、美しいと感じる事ができる。
君が、無駄の無い配列であると紋様を認めれば、それはこの世界と繋がるのだ。
君は孤独だと感じるが、そうして正しく生きようとする限り、君の側には必ず誰かが寄り添ってくれる。
君は、あの女ではない。)
そうだろうか?
多くの人を殺した姿。
孤独の末に誰とも理解し合えず、すべてを失った姿。
あれは私ではないのか?
(君は、馬鹿だね。
じゃぁ僕がちょっとばかり、想像してみようか?
君は、あの村で産まれたとしても楽しく暮らしていたろうね。
覡やそのお友達とも仲良くしていただろう。
そして呪術師の教えをしっかり学んで、時々訪れる旅人に薬草なんかを売って暮らしていたさ。
君はね、どんな場所でも結構楽しく暮らせる子だよ。
繊細なようで君はね、我の強い一徹な子だ。
そして侯爵の息子達を叱咤激励して、仲良くしろって叱っていたかもしれない。
そしてあの女の事も、叱って叱って現実をわからせていたかもしれない。
だからね、卑怯な人殺しに、同情しては駄目だよ)
そうかな、でも、私もきっと。
(納得できないようだ。仕方ない、私が代わろう)
(あぁやだなぁ、依代から解放されたオジサンが戻ってきたよ)
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