第424話 モンデリー商会 ⑥

 商会員と領土兵の話を要約すると、保護した船員の慰撫と訪問の願いであった。

 つまり、程無く彼らは神の国へと旅立つのだろう。

 それ故、看取りを願いに来たのだ。

 願う領土兵が横柄な態度であろうと、その根底には死に行く者への憐れみがあった。

 だからこそ、城塞まで足を運んだのだ。

 と、クリシィは、その考えを認め、なるべく早くに向かう事を了承した。

 だが、訴える二人には彼女の心は通じなかったようだ。

 片方は不平を。

 もう片方は不遜な不平に激昂。

 最初のやり取りを繰り返した。


(あ〜どっちもどっちだねぇ。

 何であぁも危機感がないのか。

 それにこっちも、すぐに巫女の前というのを忘れるし。

 海兵は野蛮で嫌いだよ。)


 罵りと威嚇は割愛する。

 聞いて気持ちの良いものではない。


「後、二三日は、神のお迎えは来ねぇし、巫女様にも準備ってものがあるんだよ。

 それじゃぁ、このへんで帰らせてもらいまさぁ。

 これ以上、この阿呆タレでお目を汚すのもなんですからぁ」


 と、言い切り、商会員は連れの腕を掴んで引き摺るように帰っていった。

 とりなす言葉を背にかけつつも、クリシィは頭を振っている。

 まぁ不遜な物言いも何もかも些細な事。

 本当に気になるのは死にかけている船員達の方なのだろう。

 彼女としても、今すぐアッシュガルトに向かいたい所なのか。

 しかし、軍の手続きが必要。

 ここは普通の町ではない。

 軍事施設内なのである。

 自由に外と行き来できるわけもない。

 考え込む巫女に明日の手伝いは誰が来るのかを、ニルダヌスが問う。

 最近は、スヴェンとオービスの二人ばかりが手伝いに来る。

 どうやら志願しているようだ。


「アッシュガルトへ同道を願ったほうがよろしいでしょう」


 下は、それほど治安が悪いのだろうか?


「ヴィ、貴女も一緒に来る?」


 盗み聞きがバレていた。

 廊下の窓へと彼女は問いかけてくる。

 私は椅子から降りて、窓から顔を出した。

 何と答えたものか。


「残ると同道すると、どちらがご迷惑にならずにすみましょうか?」


 私の返事に、彼女は微笑んだ。


「海を間近で見たことは無いでしょう。

 皆で一緒に下に向かいましょうか。

 ビミン、聞いていますね?

 きっと人手が必要になりますから、お母様にも伝えてきなさい。」

「ご一緒してもいいのですか?」


 盗み聞きがバレて、窓から半分顔を出した彼女に、クリシィは笑った。


「奉仕になりますが、それでよければ。城塞の外に出るのも久しぶりでしょうからね」

「なら、私は留守番を」


 と、言ったが、誰も聞いてくれなかった。

 明日は教会を閉めて、下に行くことになった。

 下とは、城塞の住民がアッシュガルトを指してそう呼ぶからだ。

 こちらは高地、一段高い土地で斜面側に城塞があり、湾側を見下ろすからだろう。

 話はまとまり、外出の意向を記した手紙を、ニルダヌスが城へと届ける事となった。

 どちらかと言えば、休みをもらったら城塞側の裏手を見たかった。

 しかし考えてみれば、一人で斜面を登る自信は無い。


(冬は泥の斜面だしね、君が転がり落ちて首の骨を折る未来が見えるよ)


 嫌な予想だが、当たりそうである。



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