第576話 人の業 ⑦
やがてオンタリオの荒涼とした森に辿り着いた。
荒れ果て自然に呑まれつつあるこの館にだ。
男達を降ろすと、馬車はあっという間に帰っていった。
残されたのは道案内の男達と待ち受けていた、この墓守達だ。
それがひと月もたたぬ前の事。
食料と水は豊富にあった。
寝泊まりする館は廃墟だったが、暮らせないわけではない。
墓守達は、館の1階部分の右側の部屋を、彼らに掃除させると寝起きに使えと申し渡した。
後は炊事場を案内し、ここでの決まりを彼らに伝えた。
職人衆が来るまで、この館から外へ出てはならない。
門を閉じて、誰も館には入れてはならない。
昼間は1階の掃除をしてもよいが、その他に立ち入ってはならない。
「ちょっと待ちな、それじゃぁお前達はここで何をしていたんだい。何もすることが無いじゃないか」
「盗賊避けに寝泊まりしていればいいって話だった」
「冗談だろ」
昼間、立ち入って良いのは、この広間と炊事場、寝起きする右側の部屋の部分だけ。
塵は裏の洗濯場で燃やす。
階上や他の部屋に立ち入ってはならない。
鍵のかかっている場所に手出ししてはならない。
そして、日没後、外に出てはならない。
「どうしてだい、盗賊よけとか抜かすんじゃないよ」
「そんな事言われてもよ、僻地だから盗人も自分たちでなんとかしなくちゃならない。
それに後からもっと人が増えたら、又、決まりを変えるって言っていたんだ。」
「もちろん、俺達の方が疑われていると思っていたんだ。
俺達が盗人にならねぇように、鍵をかけて閉じ込めるんだって」
「ん?どういう事だい」
「な、なんでい」
「お前、今、鍵をなんて言った」
「鍵をかけるんだ。」
「あぁ夜の戸締まりってことか」
「そうだ。
陽が暮れたら、館に入いる。
それまで草刈りとか塵を集めたりして暇をつぶすんだ。
あとは飯の当番決めて、夕飯を食って寝る。
割り当てられた部屋に、それぞれ入って表から鍵を」
意味がわかり、ミアはちらりとカーンを見てから自分の顔を片手で擦った。
「お前ら、夜は閉じ込められてたんだな」
「あぁ最初は金目の物をもって俺達が逃げるのを防ぐためだと思った」
「違うのかい?」
それに男達は皆、ガクガクと頷いた。
「仕事らしい仕事はしてなかった。
これで日数で金がもらえる。
春先には終わる仕事だって話だ。
雨露が凌げるし、食い物も十分ある。
だが、ここに入って10日もしない内に、皆、飽き飽きしていた。
あまりにも何にも無い暮らしだったから。
気になった。
鍵をかけた後、こいつらはどうしてるって。
どこに寝泊まりしてるのかも知らんし、もし、近場に街があるならって」
「外にでたか」
「俺達は、約束を守ったさ。けど」
仕事らしい仕事もない。
炊事当番や門番の真似事を真面目にこなしていても、暇すぎた。
夜になり、鍵をかけられる。
どうしてだ?
と、疑問をもった者達。
鍵を外からかけられる事に対する違和感。
繰り返された鍵を閉める儀式の後、男達の一人が、扉の鍵を抉じ開けると外に出ていった。
そして答えは、この目の前に残った男達だ。
五十を越える男達は、半数以下になっていた。
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