第359話 幕間 天罰だと思う ④
そもそも普通の女の子とお近づきになった事がない。
悲しい。
と、オロフは室内に目を転じて思う。
職場の女性の殆どが重量獣種の女性だ。
審判施設の女性とか、仕事関係の場合も普通じゃない女性ばかりである。
重量獣種で傭兵の男に平気で対応できる女性の多くが、オロフの考える普通の女性である訳もない。
そして重量獣種の女性といえば肉食だ。
肉食獣型の女性というだけでなく、中身の性格も肉食なのだ。
獰猛で攻撃的、男と見れば顎でつかうのが当たり前。
重量獣種同士の婚姻が少ないのも頷ける。
ちなみにオロフの母親は、その肉食の重量獣種で頭のオカシイ傭兵を顎で使っている。
武器は戦斧と二股の鞭だ。
父親よりも傭兵達は恐れている。
怒りに触れると給料も減るが、拳と鞭で調教される。
何人もいる姉も同じだ。
癒やしが無い。
『女の子ってさぁ、普通はこうだよねぇ』
女性棟の一番奥深い部屋には、冬に咲く小さな花が飾られている。
少女の髪も両脇が可愛らしい編み込みに、巫女装束も清らかである。
『真面目な様子で一生懸命答えて、いい子だねぇ。』
と、隠居した年寄りみたいな感想がわく。
そして目頭が熱いのは気の所為ではない。
主に自分のまわりの女が凶暴すぎて泣けるのだ。
「私、目が悪いもので、少し手を貸していただけますか?」
コンスタンツェが話の途中で立ち上がる。
椅子から立ち上がり、少女に向けて手を差し出した。
うまい誘導だ。
自然に手を触れさせた、とオロフは目を細めた。
どうなるだろうとオロフが見ていると、特に少女には変化が見られない。
ただ、不思議そうに手を差し出している。
どうやらコンスタンツェも気をつかって痛みを覚えさせないようにしているようだ。
雇い主は、少女の手をとったまま動かない。
読んでいるのだろうか?
それにしては反応が無さすぎる。
無言で椅子から立ち上がる姿のままなので、少女のほうは困惑していた。
と、次の瞬間、コンスタンツェが床に倒れた。
それにオロフは側に駆け寄り脈をとる。
失神しているが呼吸と脈は正常だ。
少女を見ると驚いて目を見開き、手を差し出したまま固まっている。
オロフは出入りを制限しているだろう近衛を大声で呼んだ。
特に少女から何かの動きはなかった。
目の前で見ていたのだ、何も不審は無い。
未だ差し出されたままの手を、断って見せてもらう。
念の為、触らせてもらいもしたが、何処にも仕込みは見当たらない。
あるはずがない。今日ここにコンスタンツェが押し入る事は予想できないのだから。
そして彼女の方こそ、被害者だ。
ともかく、オロフはコンスタンツェを運び出した。
私邸に戻し王家の医者を呼ぶ。
診察が終わるまでの間、生きた心地がしなかった。
もちろん非はコンスタンツェ自身にある。
けれども、少女への面会が原因だとすれば、オロフの落ち度だ。
確かに危機管理が杜撰だと認めるしか無い。
だが下された診断は、元々の疾患によるもの。
彼自身の、例の公王に連なる病であるとなった。
オロフは安堵すると共に、つい思う。
『天罰じゃね?』
神に懺悔した事は言うまでもない。
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