第796話 挿話 黄昏まで遊ぼう ⑥

 中央軍の八、八軍団末席の第八、正確に言えば八連隊が昔から戦での先陣をきる先備えの役割であった。

 現在では、獣人構成の八番目、八軍団の八兵団に所属する八番目の師団全体の意味になっている。

 これは軍全体でも八という末席こそが、一番の荒くれを揃えて、威勢を示すという伝統にもなっていた。

 軍団の一が高貴な身分の者に侍るという慣例と同じである。

 飢える事無く生きてきたお育ちの良い者ほど、八八愚連隊これも師団全体の意と呼ばれる意味を履き違えている。

 スヴェンが思うに、彼らが希求する称賛ならば、第一に所属すればよいのだ。

 まぁオービスの甥達では、求められる能力に足りないのだろう。

 あらゆる意味で彼らは履き違えている。

 第一に身分で選ばれないなら、第八で伝統で我慢をする。

 とは、世間知らずな上に身の程知らずよ。

 第一からの拒絶が、金と地位が足りぬ為と考えたか。

 ならばカーンの後に据えられた、本来の第八軍団長補佐は庶民であるから追い出せるとしたか。

 まぁ追い出された本来の軍団長補佐に、殆どがついて行ってしまった訳だが。

 そんな彼らは、現在は西南地域の第九師団として遺跡常駐の新師団を組織中だ。

 西南はカーンの支配地の大凡が含まれる。

 これはこれでカーンの派閥からすれば、ある意味良い話で、今後起こるであろう次の獣王戦の下準備でもある。

 大貴族ともなれば、己が勢力が増強されるのは良いことであるし、対外的にも威圧になる。

 そもそも第八の次は無い。

 普通は分かる話だ。

 九番目の師団を作るとは、もう一つは何れ潰すという意味だ。

 意味がわからず、喜んだのは当の馬鹿どもだけである。

 不満不足だが足場にするには良かろうと考えたのだろう。

 それを指示した氏族元も報いを受けねばならぬ。


 若さ、世間知らず、未熟、罪悪が元は指示する親や親族である。

 と、するには、その若さも理由には足りない。

 生まれゆえに許せか?


 スヴェンからすると、カーザが軍団長と名乗る度に、滑稽な道化の芝居に思えた。

 きっと本人も、本当は知っている。

 常に怯えているのが本心であろう。

 名乗らされている己の立場も、見捨てて殺した仲間の姿も常に見えているはずだ。

 そしてそれを支えている振りのオービスの甥の悪辣さを。

 きっと苦しむ姿をわかってやっている。

 ただまぁ伯父のオービスは、そんな甥の心根などわからないだろう。

 一緒に育った相手を苦しめたい等と思う捻た根性など。


 彼女は実質下級士官の、師団長補佐だ。

 そして南領軍団長とは王国軍統括の席に座る羆であり、次期南領軍団長の席に座るのは、血統と実績からもウルリヒ・カーン・バルドルバ卿であると、誰もが理解している。


「ロスハイムの旦那らがいなくなったら、此奴ら自分たちだけでやれるんですかねぇ」


「少しは使える士官もいよう」


「いるんですかい?」


「まぁ実地で痛い目にあえば、それなりになる、かもしれん」


「いや、旦那。それはこっちが困るんでさぁ」


「もしもの時は、巫女頭殿だけは頼むぞ」


「はぁそれは了解してまさぁ。

 ただねぇ、八八が潰されたなんてぇ話になったらぁ、閣下が戻されるんじゃぁねぇですかい?」


 右往左往する新兵を見ながら、スヴェンは息を吐いた。



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