第812話 挿話 陽がのぼるまで(中)③
「お祖父ちゃんは、勘違いしている」
「私はな、人として間違った事をしたんだ。その行いで反乱が起きた。
後の混乱も疫病も、元は私の欲が原因だ。
この後、私は正直に話し、罰を受ける。
だからな、お前は神殿の方々に願い出て、私と縁を切るんだ。
名前も変えて、自由になるんだ。
自由に幸せになるんだよ。
お前の不幸はな、私が原因だ。
だから、私の事は忘れて、お前の父も母も十分にお前を愛していたことだけを覚えておくんだ。
そして私の事や辛い事を捨てて、幸せに向かって歩くんだ」
「違うわ、そうじゃない。
そうじゃないの」
痺れた体に力が戻る。
怒りが私に力を与える。
「何を勝手な事を言っているの?
お祖父ちゃんが全ての原因?
だからどうなの。
それがどうしたの?
私は今も生きているし、自由だわ。
私の人生よ。
何を言っているの?
私は気がついたわ。
私は間違ってないわ。
例え、どんな真実があって、お祖父ちゃんが発端だとしても。
お祖父ちゃんが殺して歩いたんじゃないわ。
そうよ、父さんもよ。
父さんは悪い人だった。
けど、化け物が原因なの。
思い出したわ。
あの茎の化け物みたいなのが、父さんに入り込んでた。
化け物が悪いのよ。
父さんは誰も彼も殺したかったわけじゃない。
それにね、お祖父ちゃんも私の家族なの。
わかる?私の家族なのよ」
「その家族を化け物にしたのは私なんだよ。」
「だから?」
私の反論に、お祖父ちゃんは息を飲んだ。
「ため池をつくったから蚊が増えて、村中が病気になったからって、それが何?
池がなかったら干ばつの時に作物が育たなくて飢えて死ぬわ。
間違ったら正せば良いのよ。
そして次は間違わない。
薬をまいて、藪を刈ればいいのよ。
それと同じことよ。
お祖父ちゃんは良かれと思ってやった事なんでしょ?
それとも私のお祖父ちゃんは、父さんや母さんが不幸になる事を願うような人間だったの?
死んでしまえって思ったの?」
「..いいや」
「私はちゃんと知っているし覚えているわ。
お祖父ちゃんは、優しい人よ。
優しすぎる人なの。
父さんも母さんもよ。
皆、私の家族よ。
私は間違っていないわ。
だって、父さんは私を殺そうとしたんじゃないって覚えているもの。
お祖父ちゃんが死んで詫びる?
私の幸せはお祖父ちゃんが死ぬことなの?
冗談じゃないわ。
幸せ?
私の幸せを勝手に決めないで。
私から家族を取り上げないで。
お祖父ちゃんこそ、私を捨てて行かないで。
聞いてる?
死んでほしくないの。
私はお祖父ちゃんに生きていてほしいの」
叫ぶ私の口を手で塞ぐと、お祖父ちゃんは言った。
「ありがとうな、ありがとう。
私が忘れていたのはな、お前のように相手の為を思う事だった。
失うのを恐れるあまり、自分の恐怖ばかりを見つめた。
去る相手を思いやる事ができなかった。
だから、呼び止めた。
例え、それが神の意向であったとしても、選んだのは私自身だった。
死者をこの世に繋ぐなど、紛れもなく大罪だった。」
どういう事?
「神殿の巫女頭様に相談をしなさい。
これからお前は神殿の者として生きるんだ。
禍事がお前の側を通り過ぎる事もあるだろう。
耳障りの良い言葉に流される事無く、私のように人として間違う事無く生きてほしい。」
呆然とする私を見て、お祖父ちゃんは顔を背けた。
そして奥から戻ってきた兵隊に言った。
「話したい事がございます。バルドルバ卿への目通りをお願いできますでしょうか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます