第547話 霧の中 ②
「何だ、楽しそうだな」
「巫女さんは、弓を使うそうだ。
故郷じゃぁ弓で狩りをしたってぇ話をしていたところだよ」
「弓かぁ、すぐ壊しちまうからなぁ。」
「握力が強すぎて調節できないってのも難儀だよな」
と、モルドが笑う。
それにザムが肩をすくめると私に言った。
「力の調節がうまくない方なんですよ。
練習はしてるんですが、性格もあわないんでしょうね」
「集中力はあるんだが、まぁお前の場合、殴る、斬る、潰すか」
「まぁ良いこともあるぜ」
「そうか?油断を誘うなら面も変えねぇと」
「それは無理だ、色男は辛いな」
と、軽口をする男達の背後、遠くコルテスの森へと続く道に、小さな光点が見えた。
教える前に、ザムが振り返り皆に知らせる。
すぐさま、休憩をとっていた者達も動き出した。
「巫女さんは中へ」
天幕に入るよう促される。
「私達がお呼びするまで、顔は出さないでください」
ミアに言われて、私は奥へと引っ込んだ。
警戒する理由はわからないが、やはり種族民族で対立している地域だ。
こういうものなのだろう。
程なく、馬の嘶きと人の声が聞こえた。
何を話しているのか内容は聞き取れない。
朗らかな雰囲気では無いことだけはわかる。
言い合いになっていた。
天幕にミアが入ってきた。
「どうしました?」
「コルテス兵を名乗る墓守です。
獣人兵がここにいる事を訝しがっており、即座に立ち退けと」
「ここは直轄地では」
「よからぬ事をするのか、よからぬ事をしていたのを知られたくないのかってところでしょう。
単に獣人が嫌いなだけかもしれませんがね。
申し訳ないのですが、顔だけみせてもらえますか。
業腹ですが、奴らは一応コルテス人を名乗っていますんでね。
特に話す必要もありません。」
「かまいませんよ」
天幕から、ゆっくりとミアに手を引かれて出ていく。
コルテスの者達は、六名。
見た限り、兵士と墓守というが、それが本当なのかはわからない。
ただ、一人だけ身なりが上等なので、その男が墓を見回っているのかもしれない。
私の姿を見ると、彼らの険悪な表情が少し和らいだ。
ただ、私が近寄らずにいると、そんな表情もすぐさま消えて、彼らは再び顔を顰めた。
なるほど。
「多分、同じことを考えているんでしょうねぇ」
「同じ?」
「私達が人攫いじゃないか、無法者の集団じゃないかってね」
馬鹿らしい話だが、きっとそんなところだろう。
お互いに証明する事ができない。
王国軍の旗をたてていようと、彼らにはそれが真実であっても、獣人は信じられない。
お互い様で、東の人族の、自称コルテス人なぞ、野盗に同じと思っている。
情報を交換したいところであるが、カーンの不在の間である。
お互いに不干渉が一番だ。
「こんな場所に連れてくるには、子供ではないか」
「だから、我らは護衛と言っているだろう」
「護衛?どう見てもおかしいだろう」
「お互い様だな、身分証を出せといって出せない奴の方が、不審だろうが」
「誰が得体の知れぬ集団に近づくか」
仕方ない、後で怒られそうだが口を出すしか無いようだ。
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